あらすじ

 ドラゴテールという世界に呼び出されてしまった緋村更夜は、その世界で勝手に神龍に見込まれて龍騎士になってしまった。
 しかもそこに敵勢が押し寄せてきて、城にあった飛空艇に乗り込んで逃げ出したのであった……
 前途多難な冒険が、こうして始まったのであった……



ドラゴテールアドベンチャー
第二話 『青き龍騎士』


作者名:カイル




 う……?
 見たこともない部屋で、ボクは目を覚ました。どうやら、気絶してから運び込まれたらしい。
 ボクが寝転がっていたベットのほかには机、そして洗面台と扉が二つという、簡素な作りの部屋だった。一方が洗面台の近くにあることからして、おそらくはトイレだろう。
 ホテルの一人部屋を彷彿させる部屋だ。

『やっと起きたか、更夜』

 頭の中で響く声……ああ、フレイアか。そう言えば、大量の龍を相手にして……全部倒したかと思ったら気絶しちゃったんだ……
 いつの間にかベットに運ばれていたらしいボクは、顔でも洗おうと起き上がろうとして……絶句した。
 服自体は元の状態に戻っている。
 でも、問題は身体だった。大体予想はついていると思うんだけど、その……女の子のままなんだよ!

『……取り敢えず、誰もいないようだから、首飾りを握れ。そして力を込めろ。ちゃんと、話がしたい』

 訳分からなかったけれど、言うとおりにしておこう。
 ボクは、二本の剣をクロスさせた形の十字架の首飾りを握りしめ、力を込めた。
 握りしめた指の中から、赤い光が迸り、それはボクの目の前に集中、一つの形を作りだした。

「ふぅ……これで、ちゃんと話ができるな」

 赤い短髪、赤い眼の少女……始めてあったときの、神龍の姿である。
 一体どういう訳なのか、分からないけれど彼女の姿は半透明だ。

「この姿については気にするな。情報で構成されているこっちの世界では、ホログラムも不思議ではない」

 あ、そうですか。
 それで納得しているボクも、結構馬鹿なのかもしれない……

「じゃあさ、いろいろと質問しちゃうけど」

「かまわん。なんでもこい」

 そう言ったので、ボクはこの疑問を口にした。

「……何で、女の子のままなの?」

「ああ、お前がまだ、力を使い慣れていないせいだな。前は、私が制御していたから普通に戻ることができたが……お前は、ちゃんと制御しきれていない上にあれほどの力を放出したのだから、その姿になれてしまったのだろう。心配するな……そのうち、元に戻る」

 そう言われても、いつ元に戻るかっていうのが心配なんですけど。

「それとだ……更夜。妹は、大切にしろよ」

 言われなくても分かっているつもりだよ。
 だけど、彼女は首を振った。

「分かっていないな……お前は。主人公にありがちな、鈍感野郎という事か」

 失敬な。

「ついでに言えば、お前は二日ばかり寝込んでいた。その間に、この船にいた非戦闘員……つまり、一般市民は安全な島へ移住した。この船に残ったのは、戦士、魔導士、船のクルー、船長、そしてお前とお前の妹だ。因みに、お前が寝ている間は私が身体を貸してもらっていた」

 ……え?

「ねぇ、小夜も残ったの? この船に」

 その言葉に彼女は、頷いた。

「私も離れるように言ったのだがな」

 危険なのに……
 考えてみれば、相当大変な状況に巻き込まれちゃったようだな……

「……ところでさ、何でボクの体を使って君が闘わないの? 気絶する前の闘いだって、君がくれた知識を頼りにボク自身が闘ったし」

 ふむ、と彼女は腕を組み、そして言った。

「簡単に言えば、人の身体を介して力を使うには、別の力がいる。この前は、その力を使ってお前にあたえた力を使用した。だが、もうそのための力はない。日常生活を送るぐらいなら支障はないが、戦闘上では物凄く支障がある」

 ……物凄く支障があるって……君がその言葉遣いをするってのが、ボク的には意外なんだけど。
 アレ? 彼女の姿が、だんだん薄れていくような……

「誰か、来たようだ。私は戻る」

 それだけ言うと、半透明だった彼女の身体が赤い光と化し、首飾りに吸い込まれていった。
 誰か来たようだって……姿見せちゃ、なんかやばいのかな……?

 コンコン、というノック音。どうやら、フレイアの言ったことは正しかったらしい。
 ドアに近づき、鍵がかかっているかどうかを調べてみる。どうやら、かかっていないらしい。ボクは、そのままドアを開けた。

「あ、フレイア……さん?」

 本当にボクの体を使っていたのか、フレイア……まさか、それが原因じゃないよね、ボクの今の姿……
 それはともかく、小夜は少し怯えた感じでボクを見つめている。背が縮んでいるらしく、今のボクは小夜と同じぐらいの背丈。見下ろすことがない。

「違う。ボクは……更夜だ」

 ちじこまっている小夜に向けて、ボクはそう言った。
 彼女を、安心させるために。

 案の定、小夜はホッとしたようにちじこまっていた身体を、元に戻した。
 でも、彼女は何をしに来たんだろう。

「お兄ちゃん、起きたんだ」

「うん。今さっきね」

 ボクはそう応え、ついでに質問を口にした。

「ところで、何をしに来たの?」

「え? え〜〜と、艦長さんが呼んでたから、起こしに来たんだよ。フレイアさんでも、お兄ちゃんでもどっちでもいいから呼んで来いって」

 艦長? 何で、艦長がボクに用が?
 理由ならいくつか思いつくけれど、その中にあるとも言い難いし……まぁ、行ってみれば分かるか。

 ボクは小夜の案内にしたがって、歩き始めた。
 それにしても艦長さんってどんな人なんだろうな。髭を生やしたお爺さんかな(って、それはヤ○トか)。
 だったら……綺麗な、長い髪の女の人(それはアー○エンジェルだなぁ)……短い髪の、格好いい女の人(それはドミニ○ンだし)。
 ……なんか、アニメの人ばかりが頭に浮かぶ。
 結構アニメは見ていた方だしね……



 小夜に案内されてやってきた場所は、あの操舵室だった。
 何人もの人が、そこにいた。
 重そうな鎧で身を纏っている人。
 軽い鎧に細身の剣で武装している人。
 黒いマントにいろいろな宝石をつけた人もいた。
 これが、フレイアの言っていた戦士や魔導士達なのだろう。
 男物の服を着た少女が入ってきたのは、結構目を引いていたようで、ボクは周囲の視線を感じる羽目になってしまった。

「君が龍騎士フレイ? 今は剣を持っていないんだね」

 幼そうな声が聞こえた。
 ふと振り向いたが、誰もいない。声からすると、幼いってことは……念のために目線を下にずらし、確認してみた。  そこには、軍服らしき服を着た、大体五歳ぐらいの少女がいた。可愛らしい女の子である。

 話は変わるが、ボクは別にロリコンではないぞ!
 念のために言っておくけど。

 話を元に戻そう。
 彼女の菫色の髪は、背中あたりで無造作にくくられている。そして翡翠の双眸がボクを、年相応とはいえない眼光で射抜いていた。

「あ、お兄ちゃん。彼女が、この船の艦長さんだよ。とてもそうは見えないけどね

「うん。私の名前はミーティア=ウィンスレット。ティアって呼んで」

 この人が、この船の艦長? まだ子供じゃないか。
 そんなコトを思っていたら、唐突にフレイアが話しかけてきた。

『更夜。こっちの世界の者の一部には、外見と年齢が一致しない者が存在するのだ。おそらくは、彼女もそうなんだろう』

 外見と年齢が一致しないって、どうしてだよ。

『簡単に言えば情報操作だ。それに、今のおまえは人のことは言えないだろう?』

 それもそうである。
 本当ならば、ボクは男のはずなんだけれど、今はなぜか女の子のままなのだから。

「で、ティアだっけ? ボクは緋村更夜……そして同時に龍騎士フレイでもある。……好きな名前で呼んでよ」

「え、じゃあ…ポチとか」

 しばし考えた後、彼女はあろうことかそんな言葉を放った。
 こりゃ話す価値はないと思った、ボクは踵を返した。

「あ、冗談、冗談だよぅ! フレイ!」

 そんな声が背中に響いてくるので、振り向いてティアの目を見据えた。。
 こんな時にはボケないでほしいものである。

「で、ボクをなんで呼んだの?」

 年上かもしれないけれど、彼女の言動にそれらしきものが見えないからタメ口で話すことにする。
 ん〜〜、とティアはほっぺに指をあてて、そのわけを話し始めた。

「君はこの世界に召喚されたばかりって聞いた。だから、この世界のあらましをちょっと話したいと思って。そして、世界の現状も、ね。この世界は、全部で六ついるっていわれている神龍達に創られたっていわれているんだよ」

「それは神龍から聞いた。でも、世界を創った云々については、神龍が言うにはそれはデマらしいよ」

「……そうなの?」

 首を傾げられても……ボクだってフレイアから聞いただけだから、どうにもいえない。

「フレイアさんからはそんな話は聞かなかったからさ」

 どうやら、フレイアは本当にボクの体を使っていたらしい。
 嘘だと思っていたわけじゃないけれど、信じたくなかっただけである。

「話を元に戻すよ。そして、その龍達を信仰する、古代に六つの都市があった。中には滅びたところもあるけれど、まだ残っているところが四つあった。それが赤、青、緑、黄の神龍を崇めている城のある都市。
 フレイアさんである赤の龍神を崇めている『ソールフィヨル』。私達が元いた国だよ。
 青の神龍を崇めている『フェンサリル』。北の、かなり寒いところにあるんだ。
 緑の神龍を崇めている『スカタルンド』。ジャングルの中に栄えている国なんだよ。
 黄の神龍を崇めている『エーアデ』。この国は別名砂漠の国って呼ばれているんだ。

 前の四つよりは小さいけれど、魔法の国と呼ばれる『ツァオベラー』に、虹の国『ビルレスト』があるね。おっきな国はこれくらいで、後は小さい国がちらほらと」

 へ〜。そうなんだ。

「……そして、現在は後一つ、国がある。その名は『レヴィアタン』。邪龍、ディアドラゴの支配する国」

 ディアドラゴが、支配する?
 確か、ディアドラゴって大ボスみたいな奴だよね?
 よくよく考えたら変な話である。ドラゴンが、国を支配しているなんて。自分で空を飛び、攻め込めばおそらく大概の国は落ちるだろう。
 何故、それをしないのだろうか。できない理由ってのが、あるんだろうか。
 ……ディアドラゴ。そいつの裏で、何か別の陰謀が渦を巻いているのだろうか。
 しかし、それらはただの憶測に過ぎない。実際にあって見ないことには、全ては憶測の域を脱しないのだ。

「そして、悪い話なんだけど……今現在、全ての国が落ちた。実質的には、奴等は世界を征服したって言っていい」

 な……
 そんな……いきなりそんなところからか!?

「今私たちは、それぞれの国から撤退してきた者達と反乱軍を結成したんだ。世界を取り戻すために、ね」

 おいおい……初めから全世界が制圧された所から始まるお話なんて、聞いたことがないぞ。
 ただ単に、ボクが無知なだけかもしれないけれど。

「何とか、他の国から逃げ出してきた人達も色んな所に逃げ込んだんだ。そして、様々なところからこの反乱軍に入ってきてくれた。フェンサリルの『フェンリルナイツ』…計六人。ツァオベラーの『セレスティアル』…計九人。その他にも、協力してくれる人達がこの船に乗り込んだ。フレイ、君にも手伝って欲しい。ディアドラゴを、倒すことを」

 ボクは、無言で頷いた。小夜も帰ることを拒んでいるし、ボクも……そう簡単に帰れはしない。
 場に流されている感があるのは否めないけど……
 その時だった。船の舵を握っていた女性が、ティアの名前を呼んだのは。

「艦長! レッドドラゴン三匹と、エメラルドドラゴン二匹です!」

「どうにかならないの?」

「……我が船の龍達の出撃はまだ無理です。まだ、実戦レベルではありません。あんな、レベルの高い龍達に襲われては……」

 まったく意味が分からなかった。
 レッドドラゴンと、エメラルドドラゴンって奴が襲ってきたことしか分からなかった。

『簡単に言えば、炎の龍と風の龍が襲ってきたと言うことだ。奴等は高位の龍故に、それなりの力を持っていないと倒すことは不可能だ』

 唐突にフレイアが話しかけてくる。
 だったら、今のボクの力で何とかなる?

『お前が、その気になれば』

 その話を聞き、ボクは甲板へ向かった。

「お、お兄ちゃん!?」

「……大丈夫。ボクは龍騎士。赤の龍騎士、フレイなんだから」

 ボクはそう言って、走った。
 甲板を上がると、目の前には赤とエメラルドグリーンのドラゴンがいた。
 赤い龍は東洋の龍の赤い奴って感じだ。二対の羽根に、長い、蛇のような身体。ごつくて赤い鱗。手は小さいくせに、足だけは異様に大きかった。また、角も大きい。
 エメラルドグリーンの龍は、流線型のトカゲに、鳥の翼が生えたって感じであった。こちらの鱗は控えめで、空気抵抗をできるだけ無くすかのような姿であった。

「お兄ちゃん!」

 え、小夜?
 一体、どうして……ここに来ているんだ!

「お兄ちゃん。私も、闘うよ。大丈夫……魔法を、教えてもらっているから」

 それでも、ボクは彼女を闘わせたくなかった。
 素速く手刀を彼女の頸椎にあて、気絶させる。
 こういう知識も、フレイアが教えてくれるから便利である。

『正しい判断だな。一朝一夕の魔法の腕で、倒せるような相手ではない』

 フレイアは、ボクの頭の中でそう囁く。
 気絶した小夜の身体を、通路へと置く。
 ……今度変身して、元に戻らなかったらどうしよう。
 ボクは自分の身体を見てそう思ったが、今自分がやらなければ船が落ちてしまうかもしれないのだ。それに、このままじっとしていても元に戻れるという保証なんてあるわけがない。戻れなかったら、そのときに慌てればいいことだ。
 やってやる。そう思ったボクは首飾りに力を込める。そこから紅い光が発し、ボクの体を包み込み……無事ボクは赤の龍騎士、フレイに変身することができた。

「さぁ……来い! ボクが相手をしてやる!」

 ボクは、二本の剣を持つとまずはエメラルドドラゴンに向けて炎を放った。
 だが、エメラルドドラゴンは風を巻き起こし、その炎を跳ね返してきた。

「うわ!」

『馬鹿者! 風を使う奴に炎で攻撃するやつがいるか! 同じように、レッドドラゴンにも炎は通用しない!』

 そういうのは先に言ってくれ、と言いたいところだけれど……良く考えればわかることなので後先考えずに炎を発したボクが悪いってことで、納得。すぐに剣を構えた。
 赤い炎のような翼を背中に生やして飛翔、そのまま駆け抜けるようにしてレッドドラゴンをすれ違いざまに切りつける。
 だけど、思ったよりもその鱗は硬く、切り傷を突けるだけで精一杯のようである。

 レッドドラゴン三匹は、耳を突くような咆哮を上げ、紅蓮の炎を吐き出した。
 船に被害が及ばないよう、空に向かって駆け巡る。
 あんな炎に包まれるのはできれば勘弁したいので、不規則に、かつ迅速に移動する。

「え?」

 だが、世の中そんなに甘くはなかった。
 ボク以上のスピードで、エメラルドドラゴンが体当たりを仕掛けてきたのだ。
 あっけなく吹き飛ばされるボク。そして吹き飛ばされたところに、レッドドラゴンの炎の息吹。
 かわせるものじゃ、なかった。だけど、その炎に包まれても『熱い』とは感じなかった。
 熱くないのであれば、気にする必要はない。ボクはレッドドラゴンを無視してエメラルドドラゴンを倒すことに専念することにする。素早く移動している。おそらくは風を操る龍なんだろうけど、さっさと仕留めてその風を出させなければいい。
 今さっきはレッドドラゴンを攻撃して失敗したけれど、今度はエメラルドドラゴンに向けて攻撃を開始した。まぁ、相手も黙ってやられるわけがない。駿足とも思えるスピードで僕の攻撃を逃れ、かまいたちを放った。
 目に見えるほどの真空の渦が、高速でボクに迫ってくる。

「くっ」

 一瞬の苦痛。でも、思ったほどダメージがあるわけではない。
 それに、着ている服も不思議と切り裂かれていないし。
 ど〜やらこの服、見た目によらずかなり高性能の防具らしい。
 炎、風など……相手に決定打になる攻撃方法が、物理攻撃しかないとなれば話は早い。
 いくらエメラルドドラゴンが素早いといっても、攻撃するその瞬間は絶対にボクの近くにいるはずだ。そこを、利用してやる。
 そう思った、次の瞬間だった。

「苦戦中だな」

 空中なのにもかかわらず、人の声が聞こえた。
 頭に響く声ではないことからして、フレイアではない。となれば、幻聴だろうか。
 その声を無視して龍達に向かい合ったのであるが、どうやらそれが幻聴でないことに気がつく。
 一本の日本刀……それを手にした、青色の服を着た少女がそこにいたからだ。

「俺が、手を貸してやる」

 ……女の子なのに、俺といっているのか。いや、別にそれが変ってわけじゃない。
 事実、ボクの知り合いには『俺』だとか『私』だとか『ボク』だとか自分の名前にちゃん付けして名乗ったりするのを混同して使用する女の子もいたことだし。
 ……ボクだって、現在は女の子なのに『ボク』を使ったりしているしね。

 彼女はその刀を横一文字に薙ぎ払った。
 剣の軌跡から、青き閃光が迸る。
 かく言うボクも、剣先から炎を出したりできるわけだからその程度で驚くわけがない。
 だけど、その一閃がレッドドラゴンの一匹にあたった瞬間、そのレッドドラゴンがカチンコチンに凍り付いてしまったときには、さすがに驚いてしまった。

 ……まさか、彼女は……

 ボクはある仮説を立てたのだが、それをフレイアにも、彼女本人にも確認することなく、残り四匹となった龍達に目を移す。
 レッドドラゴンは青い彼女に任せることにして、ボクはエメラルドドラゴンを倒すことに専念することにした。
 思ったとおり、エメラルドドラゴンたちはかまいたちではボクに対してダメージを与えられないことを悟ったらしく、その素早さを利用した物理攻撃に移ろうというらしい。
 全部で三匹いるエメラルドドラゴンは、思い思いに散らばった。そして次の瞬間には、背中と右腕に激痛が走った。
 背中に体当たりを食らい、右腕を噛付かれたからだ。
 ならばと、攻撃を受けていない左手にある剣を使って右腕に噛付いた龍の首を切り裂いた。こちらの龍はさほど防御能力がなかったらしく、すぱりと切れてしまった。
 これで、あとは二匹。
 ぐるるるる、という喉鳴りを響かせながら、龍達はボクを睨んでいる。ボクも負けじとばかりに睨み返すが、さほど迫力があるとは思えない。
 やっぱりというかなんというか、ボクの睨みは威嚇にもならなかったらしい。その鋭い牙を剥き、二匹の龍が疾走する。
 痛いのは嫌いなので、ボクは迷わずにさっきいた場所から上空へと逃れた。
 二匹の龍は、もとボクのいた場所に攻撃を仕掛けたが、当然そこに誰もいるはずがない。
 痛くて動かしづらい右手は使わずに、左手だけを使って剣を一閃させる。
 剣から炎が噴出し、風を生み出す隙さえ与えずに燃やし尽くした。
 情報の塵となって消えた龍達。エメラルドドラゴン三匹を、とりあえず倒すことに成功したボクは青い少女とレッドドラゴンがいたはずの場所を見た。
 レッドドラゴンはおらず、変わりに目を丸くさせた青い少女がいるだけだった。
 その少女は、マリンブルーの髪にスカイブルーの瞳。ボクの服を青くしたような服を着ていて、透き通った羽衣のようなものを身につけていた。
 翼もないのに、彼女は空中に浮いている。疑問点はあるが、別に気にすることではないので保留しておくことにする。

「よかったぜ。仲間に会えて」

 仲間……? ってことは、やっぱり。
 そうだよね、フレイア。

『ああ。確かにそうだな。彼女は……お前と同じ、龍騎士だ』

「……うん。ボクは赤の龍騎士。フレイって言うんだ。君は?」

「俺か? 俺は……青の龍騎士。マールだって言うんだ」

 マールさん、か。
 まさか、ほかの龍騎士にこんなに早く出会えるとはね。

「ところで、フレイは龍騎士になって何をしているんだ? レヴィアタンに、すべての国を支配されたってことはフレイの国も支配されたってことだろう?」

 ここで話しても、話が長くなりそうな気がする。
 ボクは、反乱軍に所属している、ということだけを話した。

「それで、君は?」

「ああ、俺か。青の神龍に選ばれてから、ディアドラゴと戦うために仲間を探していたんだ。それにしても反乱軍か……」

 彼女は、しばし考えた後、こう言った。

「よし、俺もその反乱軍に、加盟していいか?」

 まぁ、予想できる答えだったので、彼女が考えているうちに考えた言葉をそのまま伝えた。

「あの艦の艦長さんに聞いてみるよ」

 と、言うわけでボク達二人は、艦の甲板に降り立った。
 そこには魔術師が数名いたのだが、すでに危険が去ったことを伝えると残念そうな顔、ほっとした顔など、人それぞれの表情を浮かべて艦内に戻っていった。
 と、気がつけば小夜はあのときに気絶させ、寝かせておいた場所から動かされていないらしかった。
 しょうがないなぁ、とつぶやいて彼女を持ち上げた。

「へぇ、彼女?」

 と、面白がった声が後ろから聞こえたが、「妹だよ」と素っ気無く返しておいた。
 しかし、抱きかかえたはいいものの小夜の部屋がわからない以上、どこに眠らせておけばいいかもわからない。
 仕方なくボクは、彼女を背中に回し、おんぶする形で運ぶことにした。
 後ろでなんかマールがくすくす笑っているけれど、気にしないのが一番である。

「妹にしては、年が同じっぽいけれど?」

「双子なんだ」

 答えると、彼女は異様に驚いた顔をした。
 双子であることの、どこに驚く必要があるのだろう。

「それに、ボク達二人はこの世界の住人じゃない」

 そう言ったら、こっちの話には驚かなかったようだ。
 顔を見てみれば、訝しげに眉をひそめている。うそだとでも思っているのだろう。

「召喚、されたんだ。赤の龍騎士となる可能性のある人物だった、ボクが」

「じゃあ、妹のほうは何で?」

「ちょうど近くにいたから、それに巻き込まれる形で」

 なんか、そう話していると馬鹿らしくなってくる。
 こっちの世界の争いごとに巻き込まれてしまったのだから。

 ボクは小夜を背負いながらマールをつれて、操舵室までやってきた。
 にこりとした笑顔で、艦長のティアが迎えてくれる。

「どうやら追い払ったようだね。で、そっちの娘さんは?」

「……フレイ。このちっこいの、何だ?」

 ちっこいのって……それはいくらなんでもひどいと思うよ。
 案の定、ティアは頬を膨らませて怒っている。

「……念のために言っておくと、この人がこの船の艦長だよ。ティア、こっちは龍騎士のマール。反乱軍に入りたいんだって」

「べつにいいけどさ。ちょっと君」

 ティアは、年相応……じゃなくて外見相応とは思えない眼光でマールを射ぬいた。
 蛇ににらまれた蛙のように動かなくなるマール。いや、本当にそうなのかもしれないけれど。
 そんな光景を尻目に、近くの空いている席を見つけたボクはそこに小夜を置いた。
 肩の荷が下りたところで、今度は元に戻る手順を踏んだ。
 たいしたことじゃない。変身したときと、逆の手順を踏めばいいだけなのだから。
 赤い光がボクを包む。龍騎士としての力が抜けていくのを感じるとともに、骨格が変化する感覚を味わった。
 すべてが終わったとき、ボクは自分の体を確認してみた。胸は膨らんでいないし、声だってちゃんと昔のままだ。
 つまり……男に戻れたってことか。

 ほっとしたところで周りの様子を見てみる。
 驚いた顔や、納得している顔が並んでいた。

『あらかじめ、私と小夜でお前のことは紹介済みだったからな。本当に男だとわかって、驚いたりそれに納得したりしているんだろう』

 ……それくらい、少し考えをめぐらせればボクにもわかるんだけど。
 フレイア、君ってボクを馬鹿だと思っていない?
 心の中で、そう問うてみたけれど、答えが帰ってくることはなかった。
 神龍ってのも、そこまで神秘的な奴じゃないってことか。

「う……う〜〜〜ん」

 おや?

「あふ……あ、お兄ちゃん」

 目覚めた小夜は、ボクを上目遣いに睨んできた。
 うっ。やっぱ、あれか?

「いきなり、打つなんて……ひどいよ」

 その目には、少しばかり涙が浮かんできている……
 流石に、アレはやりすぎだったのかもしれないな……
 ボクは、素直に謝ることにした。

「ごめんよ……でも小夜。一朝一夕の魔法の腕で、龍に立ち向かうなんて危険じゃないか」

「だって、お兄ちゃんが心配だったんだもん」

「心配であっても! ボクは一応龍騎士なんだから戦う力を持っているんだ。それに、魔法が使えるからってそれを過信しちゃいけないんだよ」

 今さっき、炎を放って吹き飛ばされたことを思い出しながら諭した。
 生兵法は怪我の元、とも言うしね。

「ごめんなさい……」

 ようやく危険だって事がわかったのか、彼女はしおらしく謝った。
 うんうん、わかってくれて僕もうれしいよ。

「そう言えばお兄ちゃん。あっちで艦長さんに説教食らっているのって、誰?」

 説教を食らっている……
 ボクは、そっちのほうを見てみた。小さい女の子に叱られている、青い髪の少女という光景が目に入る。

「ボクが龍と戦っているときに加勢に入ってくれた龍騎士だよ。『青の龍騎士』だって」

 多分、あの羽衣は空を飛ぶときに使うものなのだろう。まるで昔話の天女みたいだな。
 ん? そう言えば、ボクって自分の龍騎士としての姿を確認していないじゃないか!
 部屋に洗面台はあったけれど、フレイアと話した後すぐに小夜につれられてこの操舵室に来ることになったし。その後すぐに敵襲。鏡を見るひまなんてありゃしない。

「そう言えば小夜。ボクが龍騎士の時の姿って、どんな風なの?」

「フレイアさんとほとんど同じだよ。ショートカットの真紅の髪に、薄紅色の目。かわいかったよ」

 ………「かわいい」といわれて喜ぶ男なんているのだろうか? そりゃ、そう言うのを売りにしている男だっているだろう。しかし、生憎とボクはそんなタイプの男ではなかった。

「そういえば、マール……彼女は自分のことを『俺』って言っていたけれど、彼女もボクと同じで普通のときは男なのかな?」

 でも、俺っ娘なんてのもいるしなぁ。結局のところ、どうなんだろうか。
 本人に聞いてみれば早いけれど、当の本人が現在お説教を受けているのでそれは無理だろう。
 「ちっこいの」といったのが、よほど癇に障ったのだろう。ティアは頭から湯気が出そうなぐらい、怒った顔つきをしている。
 対するマールは、正座をさせられて涙しながらお説教を受けているのであった。

「小夜。そう言えば、魔法が使えるって話だったね」

「うん。といっても、簡単な防御魔法だけどね」

「じゃあ、その魔法を見せてよ」

「え?」

 とたん、小夜は驚いたような、恥ずかしいようなそんな微妙な顔つきになった。
 どうしたんだろうか、と思い口を開こうとしたら。

「あ、うん……じゃあ、私の部屋に来て……」

 なんか、耳まで赤くなっているんですけれど。
 そんなに魔法を使うことが恥ずかしいのかなぁ。
 あ、フレイア! 今、鼻で笑ったな! いったいなんだよ。教えられないって……それに、自分で考えろぉ?
 何だよ、教えてくれたっていいじゃんか! ……どうしても教えないって言うんだね、君は……
 いったい、どう言うことなのか……ボクにわかるはずもないけれど、とりあえず今は小夜に、使えるようになった魔法を見せてもらうことにしよう。






PS:因みに、マールがティアから開放されたのは、みんなが寝静まるころであったという……おかげで、なにも聞くことができなかった。

 

TO BE CONTINUED


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