ドラゴテールアドベンチャー
第五話 『戦いの理由』
作者名:カイル
くそ!
こんな狭い穴じゃ、翼が出せない!
ボクは、背中にいる小夜を無理やり前に持ってきた。さらに、いっしょに落ちてきたベネを捕まえ、これも抱き捕まえる。
「あああああああああああああ!」
こんな狭いところじゃ、飛ぶこともできない。
だったら、背中の炎の翼を噴射して、落ちるスピードだけでも落とせないかと、考えたのだ。
とはいえ落下スピードが落下スピードである。
三人分の体重を抱えきれるか、それも問題だ。
でも、やらずに後悔するよりやって後悔したほうが、はるかにましである。
いざとなったら、『力』をクッションにすれば……あるいは、助かるかもしれない。
いろいろと覚悟を決め、ボクは着地に備えた。
だけど、着地の瞬間はあっけないものだった。
クッションになるものが、あったからだ。
「……? なんだ、意外とあっけな……」
だが、そのクッションがなにかを知って、ボクは絶句した。
累々と重なる、人の死体……のようなものであった。
実際に触っても、それが死体であることは間違いないのだが……こっちの世界では、ありえないことだ。
こっちの世界では、『死』はあくまで『消滅』なのだから。
「……助かったの?」
「見るな!」
ボクは小夜を抱きしめ、視界を奪った。
「……これ……どういうこと……?」
こっちの世界の住人であるベネは、目の前の惨状に驚いているようだ。
本来ならばありえない光景に。
それがいったい何なのか、ボクにはわからない。
でも、小夜にこんな光景を見せるわけにはいかない。だから……ボクは炎を呼び出し、死体を焼き払った。
燃え盛る炎の中、その死体は次々とデータの塵と化していく。こっちの世界、本来の『死』へと、帰っていく。
「……ぁぁぁぁぁぁあああああああ」
すべての死体をデータの塵にした後、声が頭上から聞こえてきた。
……聞き覚えのある、声が。
何もする暇もなく、その人物は落ちてきた。
着地寸前に放った、水の槍がそのスピードを押さえ、地面に叩きつけられることだけは避けたようだ。
「マール!」
「いちちち……ん? なんだ、フレイに小夜。それにベネじゃねぇか。お前等も落とされたのか?」
ボクは、無言で頷いた。
しかしこの分だと……
ぶわ! という音が聞こえた。
そして次の瞬間には、柚ちゃんが同じところから落ちてきた。
どうやら彼女は、風圧を地面にぶつけることにより、助かったようである。
「あ、更夜さん! ……兄妹で、何をやってるんですか?」
言われて、気がついた。
小夜をぎゅっと抱きしめて、顔を胸にうずめさせていることに。
「……お兄ちゃん……苦しい……」
「あ、ごめん!」
酸欠のせいか、顔を真っ赤にさせた小夜を身体から離した。
咳き込む小夜。
「お兄ちゃん……いきなり、どうしたの? 見るなって……何があったの?」
「あ、いや……」
思わず、言葉を濁してしまう。
あんなものを、どう説明したらいいのか……と、いうより説明していいものか。
「……言えないよ。言ったら、きっと気分が悪くなるから」
そう言って、真実を伝えるのを避けておいた。
それにしてもここって……なんだろう。
すぐそこに鉄格子があるけど、まさか牢屋の中じゃないよね。
「……誰か、罠に引っかかったと思ったら、小娘ばかりじゃないか」
鉄格子の向こう側に、軍服を着たダンディなオジさんがいた。
確かに、見た目は小娘だね……
っていうか、本当に牢屋の中だったのか。
「狙いは、なんだ? 世界の希望となる龍騎士を助けに来たか? この国の占領を解こうというのか? もしくは……暗殺か?」
「……龍騎士を、助けに来たんだ。どこにいるか、教えてくれれば命までは取らないよ」
真実を言った。
小夜やベネを守りながら戦うのもちょっときついけど、逃げるだけならなんとかなるだろう。
ボク達は、目の前にいるダンディなオジさんの答えを待った。
「……ふっ。笑止! あんなデマ情報に騙されて来る奴がいるとはな! 案外、あの女の言うことも正しいのかもしれん」
デマ、情報……って事は。
ここに、龍騎士は捕まってはいないって事だよね……
「で、でも……明日処刑するって……」
「そんなモン、偽者を殺すのさ。龍騎士を殺すと明言すれば、町の者達の希望が消える。希望が消えれば、こちらの言うことも訊くようになる。あとはいい戦士にしたてて、利用するのさ。本当の龍騎士を、殺すためにな」
いい戦士……まさか……あの、魔薬室で見つけた、あの薬品を使うつもりじゃ……
「……その部屋においてあったあれは消し去ったのか。動死体……ゾンビの失敗作……ただの、データの屑を」
「あ……あれは、ゾンビの失敗作……? 君達……世界を征服したくせに、なぜそんなことをする!?」
ボクは、叫んでいた。
……世界を征服しておきながら、人々を虐げ、挙句の果てに人体実験のようなことまでしている、その非道さへの怒りの噴出だ。
「この俺にもわからんよ。上の考えることはな。だが……『死』から救ってくれた、あの男とあの女には、感謝しているぜ。だからこそ、俺はあの男と、女のいうことに従う。例え、それが……世の正義から外れたことだとしてもな」
………ここに、龍騎士がいないとわかった今……ボク達がここにいる意味は、ない。
怒りはある。この国を占領している兵を、皆殺しにしたい考えもある。
だけど……そんなことをしても、意味はない。レヴィアタンから、ディアドラゴの新たなる兵が派遣されるだけだ。
フレイアもボクの心の中で叫ぶ。落ち着け、冷静になれ、と。
「……まったく。嘘だったなんてね……せっかく会えると思っていたのに」
ベネが、鉄格子を睨みつけた。
龍騎士に会いたがっていたような口調だ。
「……ねぇ。この鉄格子、壊しちゃってもいい?」
「……小娘が。でかい口を叩くな。龍騎士でもない限り、この部屋を破壊することはかなわん」
ふ〜〜〜ん。
だったら、ボク達だったら、破壊できるって事だね。
ボクは、もう二人の龍騎士に目で合図をした。
始めから、彼女達もやるつもりみたいだったみたいだ。
ボク、柚ちゃん、マールの手が、鉄格子に向けられる。
「いろいろ教えてくださって、ありがとうございます」
「感謝するから、警告してやる……そこをどけ」
「龍騎士の力……見せてあげるよ」
火炎と、氷河と、疾風が迸った。
三人から発せられた三つの力は、鉄格子のみならず、その周りの壁をぶち抜き、なおかつその向こう側の壁を無数、貫通するほどの威力だった。
「……あ、あんたら……まさか……龍騎士?」
当然、とばかりにボク達は頷いた。
「ボクは赤の龍騎士で、フレイっていうんだ。で、青の龍騎士のマール。そして緑の龍騎士のゆ…」
「龍騎士としての名前は、ヴァンです。あとは逃げましょう」
そっか。ボクと同じように、龍騎士としての名前を決めたんだ。
まぁ、彼女はボクのことを「更夜さん」と呼んでいるから、「柚ちゃん」と呼んでもかまわないだろう。
「あ……あたし……」
「話はあとあと。さっさと抜け出そう。どうせボク達はよそ者なんだから、町から逃げちゃえば追ってはないと思うし。空を飛んで逃げれば、そう簡単に兵士達に見つかることはないはずだ」
ボクは、わざと大声でそういった。
さっきのオジさんが、マールの警告にしたがってどいたため、生き延びていたからだ。
すぐそこに、尻餅をついて転がっている。
「そんな奴は無視していこう。ど〜せ、こいつを逃がしたところで侵入者が入ったって事はばれちゃってんだ。じゃあ、そこの奴。ボク達はこの町から逃げるよ。ばいばい」
こういう情報を相手に流すことで、町の人への危害を、最小限に食い止めることができるはずだ。
町から逃げるのであれば、誰かがかくまう必要もない。よそ者であるのなら、町には関係する奴はいない。そういうことを、教えてやればいいのだ。
「それでは。さようなら」
柚ちゃんの言葉を最後に、ボク達は通路を駆け出した。
前方より兵士達が合計五名、向かってくる。そのうち三人が剣を……二人が銃を手にしていた。
だけど……遅い。
剣を振るう暇も、銃を抜く隙も与えずにボク達三人の龍騎士は兵士を、倒した。
データが塵となって散っていくが、それに気を取られている暇は、ない。
ボクと柚ちゃんが前方を。マールが後ろに。そしてその間に、小夜とベネがいる。そういう順番で、ボク達は進んだ。
通路はほぼ一本道なので、迷いようはない。誰もなにも話さないまま、現れる兵士達を倒す……それはひどく、作業的だった。
だがそんな、作業的な行為も終わりを告げた。
……階段を上り終え、少し広いぐらいの部屋に出たときに。
そこにいたのは、昼……ボクと小夜が会った、あの兵士だった。なんともいえないような鬼気を、身体中から発していて、ボク達の動きを止めたのだ。
「……貴方は……」
「昼間の……兄妹の連れか。兄貴のほうはいないようだな」
彼は、淡々とそう告げた。
「……ボクだ。ボクは赤の龍騎士であると同時に、貴方が昼に会った、兄妹の兄……更夜でもある。道を、開けてくれない? ボク達には、君と戦う理由はない。ただ、ボク達は脱出したいだけだから」
「お前等にはなくとも、俺にはある……一人だけでも、ここで龍騎士を足止めする必要がある」
それは、確固たる決意の含まれる声だった。
言葉でどうこうできるような相手ではない。
「……死ぬと、わかっていても? ボク達が龍騎士だって事は知っているようだから……ボク達の力の大きさも、わかるはず。どいてくれ」
それでも。なお詭弁を弄すのか。
無駄だとわかっていながら。
「……そのための、『力』がある……龍騎士とこうして話せたこと。感謝しよう」
彼はそう言って、右手に握られていた小瓶……いや、あれは注射器だ! それを、左手に注入した!
まさか……あの……魔薬を!
……あの魔薬……正体の予測は、大体ついた。フレイアも、意見は同じだった。
すなわち……あの魔薬は、使用者を変革させるもののはずだ。あの部屋の状況からして、まちがいはなかった。
そして……その予測は、間違ってはいなかったようだ。
目の前の男は、その姿を異形の人型へと変えていく。
「フレイ! やばいぞ、こいつは!」
「更夜さん! 今のうちに……」
マールと柚ちゃんの言葉に、ボクは首を振った。
「……大勢で残っても、こいつと同じ奴が大量に駆けつけたりしたら終わりだ。ボクはこいつを倒す。今のうちに……逃げろ!」
「おいフレイ……」
マールが反論をしようとする。
ボクは心の中から噴出する何らかの感情を、その激流のままに口から吐き出した。
「あいつが打った薬は大量にあった! こいつと同じような奴がいないとは、限らない! そうなったら、小夜やベネを守りなからじゃ、絶対に負ける! かといってボクもいっしょに逃げたら、こいつはボク等を追いかけてくる! じゃなければ、ここで待っていた意味がない! 逃げても追いつくことができる……そういう自信があるからこそ、堂々と待っていたんだ! わかったら言うことを訊いて、さっさと逃げろ!」
反論も、ないようだ。
頷いたマールは、傍らのベネを抱えると先の階段へと進んでいった。
柚ちゃんと小夜は、渋っていたようだが……ボクがそちらへ目を向けると、観念したように先へと走っていった。
さて…と。
ボクは、目の前の異形となったものの姿を、観察した。
シルエットは人型。だが、全身を覆う硬い、鎧のような皮膚と、背中の翼。そして頭から生えている角が、ただの人でない事を主張している。
まるで、全身鎧を着こんだ悪魔、という印象を受ける。
武器は、巨大な両刃の剣。本来なら両手で持つような剣だが……彼……悪魔は、それを片手で握っていた。
「……一つ訊くけど……なんで、龍騎士を足止めする必要があるの?」
「言う必要などない」
刹那。
ボクの双剣と、相手の両刃剣がぶつかり、甲高い金属音が鳴り響いた。
「ならば問う! 何のために、君は戦うんだ! どんな想いや信念を持ち、戦っているんだ!」
拮抗状態の中、ボクは問うた。
人は、なんかしらの想いや、信念を持つからこそ……戦うことができる。
例えそれが、憤怒や憎悪、悲哀、征服心でも想いは想いだ。その想いがどんなものであれ、それがなくては人は拳の一つも握ることはできはしないだろう。
借り物の力を手にした悪魔は、
「……俺に勝ち、聞き出してみろ」
と応える。
……どちらにしろ、この戦いに勝つ必要があるようだ。
剣先に『力』を集中させ、そこから炎を放出させた。
「ぬ……」
だが、黒い鎧に身を包んだ悪魔を焼き払うことは、不可能だったようだ。
今までの……下級の龍、もしくはただの人間ならば、普通に焼き焦がすことができただろう。
やはり、さっきの魔薬が彼を強化している、ということか。
「炎か……ならば悪魔の力、存分に堪能するがいい!」
彼はそういい、その両刃剣を振るった。そこから黒みを帯びた、蒼き炎を発する。
驚く必要なんてなかった。敵がどんな能力を持っているかわからなかったのがわかった……ただ、それだけだ。ボクは再び剣を振るい、緋の炎を発する。
緋と蒼……二つの炎が、激突した。
炎は交じり合い、広い部屋を熱気で炙って行く。
炎と炎では、埒があかない。
その考えは、あちらも同じだったようである。互いに剣を構え、炎の中へと突進する。
ボクは剣をクロスさせ、振り下ろされた剣を受け止める。
重い。彼の剣は、重い。
受け止めることが、精一杯だ。
……ならば。
「……大地の奥底に住まうも……」
「させぬ!」
盟約の言葉を紡ぎ出そうとした瞬間、横から蹴りが入れられた。
横に吹き飛ぶが、怪我はない。その代わり、盟約の言葉を紡ぐことができなかった。
脇腹を押さえながら、地を蹴り……十文字に、剣を振るった。剣自体は、空を切っただけだった。だが、剣先から放たれた熱線が、悪魔の鎧を十字に焼いた……
「大地の奥底に住まう者よ 我に敵対する者を焼き尽くしたまえ! 噴炎!」
盟約の言葉を紡ぎ終え、力ある言葉を発した次の瞬間には、悪魔の足元から溶岩が噴出し、大噴火を引き起こした。溶岩は悪魔を飲みこみ、爆発した。
噴火の終わった後、倒れこんでいたのは悪魔ではなかった。
ただの……兵士だ。
「……約束だよ。教えてもらおうか……君の、戦う理由を」
「そんなもの……聞いて、どうする?」
息も絶え絶えになった彼は、ボクを弱々しい目で見つめる。
「……知っておきたいんだ。世界を征服するものの下へとついた理由を。どんな想いがあって、そんなことをするのかを」
「……物好きな、奴だ。いいだろう。教えてやる。俺は……死刑囚だ」
その言葉に、どきりと来た。
死刑囚って……
「そうさ……ディアドラゴに組している奴は、そのほとんどが刑務所に入っていた者達だ。俺はある罪を犯し、捕まり……死刑を言い渡された。だが突然の刑務所破り。そのときに言われた言葉が……『ついて来い。暴れさせてやる』だった。俺も死にたくはなかったからな。ついていった……その結果がこれだ」
そうか……それで、世界征服をした者についているのか。
「……俺はもう動けない……お前を、邪魔することはできない……行け……お前の信念を貫け」
それが最後の言葉だった。
彼の身体が光の粒子……データの塵芥となって消えていく。
生きるために戦い、そして散っていった彼は、何を思いながら逝ったのだろうか……
ボクにわかるわけがないのだが、思わず問うてしまう。それに答えるものが誰もいないと知りながら。
思わず感慨にふけっていた……そのときだった。
突如、ボクを白い光が包んだ。殺傷力があるわけではない。目くらましにさえならない、光。
光はボクの髪の毛先や、手足の爪まで細密に包み上げ、消えていく。いったい何なんだろうか、この光は。
「ニーハオ! 龍騎士ちゃん?」
「誰だ!」
思わず、そう訊いてしまった。訊いてしまってから、思った。応えるわけがないな……と。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだった……我が名は、エルディ」
ところが、予想と反してその声は名前を返してきてくれた。
律儀というか馬鹿というか……
「……ところで龍騎士君」
「ちゃんじゃなかったの?」
と、ここで揚げ足を取ってしまうボク。
まぁ、こういうところに現れるのはそれなりの地位につく奴って相場が決まってるから、こうやって遊ぶのもいいかもしれない。
「龍騎士ちゃんよりも言い易いからよ。龍騎士殿、も言い易いんだけど……敵に殿をつけてもねぇ。だから、龍騎士君」
「もう、どうでもいいよ……で、何の用? こっちは急がなきゃいけない身なんで、用件があるんならできるだけ手短にしてくれない? ついでに言うと、名前だけ言われてもどんな奴かわからない。できれば、姿を見せてほしいんだけど」
「わかったわ。じゃあ、見て驚かないようにね♪」
声の主は、優雅な歩き方で下の階段から歩いてきた。
長い銀髪に、サングラスをかけた妙齢の女性だ。
「久しぶりね。龍騎士君」
久しぶりっていわれても……見覚えはない。
「初対面のはずなんだけど……」
「……あんた……人に火炎弾投げて逃げたくせに、私の事を知らないって、どういう用件よ!」
火炎弾を投げて逃げた……?
はて。身に覚えがないなぁ。
「……あんた……私が、緑の龍騎士を連れていこうとしたとき、私の言うことを訊かずに、卑怯な手を使って私に炎をぶち当てたでしょうが!」
え〜〜〜っと。確かに柚ちゃんとはじめた合った日……妙なちょんまげの女……マリクレ……とか名乗った奴がいたような……
「……確かあの時のは、マリクレ何たらだったような……しかも、ちょんまげの」
しかし、あんなちょっとした言葉をボクもよく覚えているもんである。これがテストとかに生かすことができれば文句はないんだけど……
「改名したの! それに、あの髪型は仮装用のかつらを寝ている間に誰かにつけられて、知らずに出ちゃったんだから! 恥ずかしいったらありゃしない!」
「どうでもいいけど……用件は手短にって、言ったはずだよ」
「……むきぃ!」
……なんなんだ、こいつは。
「とにかく! 実はこっちの用件は終わっているの! ふぅ。貴方の詳細なデータをとることができて、助かったわ」
詳細なデータって……なんだ? まさか!
「まさか、それは……ボクの身長・体重・スリーサイズ・その他もろもろじゃないだろうな!」
その言葉に、思わず彼女はずっこけた。
なんだ。やっぱり違うのか。
「……今さっき貴方が浴びた光……それで、スキャンしたのよ。龍騎士のデータなんて、滅多にとれないからね。さっきの悪魔君との戦いのデータも、参考になったわ」
「何をするのか知らないけど、もう帰っていい?」
「だ〜め♪ 龍騎士君。ここは通さないわよ」
彼女はそう言い放ち、上への階段の前に立ちはだかった。
「……さて。邪魔するって言うんだったら、こっちにも手はあるよ」
「ほほほ。手はあるって、どんな手? 言っとくけど、この間の卑怯な手には引っかからなくてよ!」
あの程度の手に引っかかるのも、驚きなんだけど……
まぁいいや。ボクは、上の階段をちらりと見て確認し、叫んだ。
「今だ、みんな!」
「な、なに!?」
ボクの言葉に、思わずそちらのほうを見るエルディ。だけど、そこには誰もいない。
いるはずがない。ボクが叫んだのは、策略だったんだから。
その策略に見事引っかかってくれたエルディに、火炎弾をぶちかました。
耳をつく叫びを上げるけど、容赦なく蹴り飛ばし、先を急ぐことにした。
っと。そうだ。炎の壁をはっとこ。
自分が通ったあとに、分厚い炎の壁を呼び出した。これでエルディがついて来ることは、多分ない。
ボクは、前に続く道に足を進め、思う。
敵にも、いろいろな考えを持つ奴がいるもんだなぁ、と。
「……お兄ちゃん、大丈夫かな……」
私は、思わず漏らしてしまった。
「大丈夫です。更夜さんも龍騎士の一人ですから。貴方も、お兄さんのことをもっと信じてあげてください」
うん。そうしたいけど……心配は、そう消せないもの……
「あのさ。城を壊して脱出! とか駄目?」
ベネがそう言うけど、マールさん、柚ちゃん、私が口をそろえて『駄目』と言った。
もともとこの城は、敵の住む場所じゃなくて王様達が住む場所。いつかは元の持ち主に帰るんだから、私達の手で壊したら気の毒だろうな、という考えから、お兄ちゃんも含めた私達四人は、夕飯時に決めたんだ。
私達は走りつづけ、なんとか一階までたどり着いていた。
私達は何度か迷ったけど、壁にしるしをつけておいたからお兄ちゃんはすぐにくる。そう、信じている。
ここまで来てしまえば、もう簡単だった。さほど時間をかけずに、城の入り口までたどり着くことができた。
兵士さん達がいたけど、マールさんと柚ちゃんの手にかかれば、あっという間に気絶させちゃった。
後は……ここで、お兄ちゃんを待って、艦に帰るだけだね。
「……ところでベネ。お前、どうするんだ? このまま旅を続けるつもりか?」
「ううん。あたし、黙っていたことがあるんだ。それを知ったら、きっとビックリするよ」
ビックリ……? ベネちゃん……?
「実はあたしは……」
「ははははははははは! 来た来た来た来た来たーーーーー! この俺様のデビュー記念!」
ベネちゃんはなにかを言おうとしていたみたいだけど、突如として響いた馬鹿笑いによってかき消された。
声のするほうを見てみれば……
月明かりをバックに、妙なポーズを取った男の人がいた。腰には剣をさしている。
何なんだろう、この人。
「龍騎士が侵入した? どうせ名前をかたる偽者だろう? 気紛れ裁判官であるこの俺、レオンの判決は死刑と出た! 因みに本物だろうと死刑だ!」
……か、勝手だ……勝手なこといってるよ。
それにしても……うう、怖いなぁ……
「はぁ。じゃあ青と緑の龍騎士さん。見ててください。私の、力を!」
彼女の身につけていた、サークレットが、黄の輝きを放ち始めた。その光に包まれて、彼女の服装が……地味なものから、イエローの見覚えのある服に、変わっていく。あの服は……もしかして……
その光景を訝しげに見つめるレオンと名乗る、わけのわからない人……しかも、抜き身の剣を振り回している……危ない人だよぉ。
「はっはっは! お嬢ちゃんが戦うのかい? それは何のためか、正義のためか? いかんなぁ。力とは! 自分のために振るうもの! 人のかざす正義など、偽りに過ぎない! 偽りの正義を滅するため、俺は相手が女の子だろうと容赦なく戦うことを、誓う!」
「……わざわざ言うのもめんどくさいから、倒しちゃお」
ベネちゃんがそう言って取り出した武器は、槌。
紋章の描かれた、目の前の少女が持つには大きすぎる槌だった。
だけど、彼女はそれを平気な顔して振り回した。
そして……ベネちゃんとレオンは、互いの武器と武器をぶつけ合い、はなれる。
「ほう。やるじゃねぇか。まぁ、ゆっくり戦うことができないのは残念だが……一気に決めさせてもらうぜ!
ジャスティス・ブレイカー!」
「なら、こっちもいくよ!」
刀身に力をため、ジャンプして天から襲いかかるレオンと、槌に力を与え、地で待ち構えるベネちゃん。
だけどベネちゃんは、その一撃を本当に待つつもりは、毛頭なかったみたいだ。
剣と槌がぶつかり合う直前、ベネちゃんは横に跳んだ。
剣が、地面にたたきつけられたその瞬間に、隙ができた。それを狙っていたんだろう。横に飛んだときに、既に槌は振りかぶっていたので、あとはそれを振るうだけだった。
「じゃぁね、さよなら!」
鈍い音が、響き……レオンは、飛んでいった。
『覚えてろよー』という、捨て台詞と共に。
「とんだなぁ」
「ええ。よくとびましたね」
「ホームランだね」
「お星様にしてあげたんだよ」
彼の跳んでいったほうを身ながら、口々にそう言った。
「お〜〜〜い、みんな〜〜〜〜!」
あ、お兄ちゃんだ。
よかった……無事だったんだ。
「お兄ちゃ〜〜ん!」
「ふぅ。壁についていたあの傷……誰がつけたの? おかげで早く出られたけど」
「ああ。つけたのは俺だけど、提案者は小夜だ。『お兄ちゃんが出るときに困らないように』って言ってたぞ」
……顔に、血が上るのを感じた。
幸いにして今は夜だから、顔色が目立たなくてよかった……
「そっか。ありがと、小夜。マール。……っと。そうだ! はやく逃げよう。……ところでベネちゃん。その格好って?」
「うん。あたし、黄の神龍の力を得た、黄の龍騎士。エーベネだよ。あ、いつもど〜りベネでいいからね」
ベネちゃんは、そう言って華麗に一礼して見せた。
気さくだけど、礼儀は忘れないタイプみたい。
「……えっと。ベネ……おまえ、もしかして……龍騎士を助けるために、あそこにもぐりこんだのか?」
「うん。だってさ。私の国も滅茶苦茶にしたディアドラゴとか言うふざけた奴を、このあたしが赦すはずないじゃん。とはいえ、一人じゃ不安だから……仲間を集めようと思って旅をしてたんだ。で、タイミングがいいのか悪いのか、龍騎士を捕らえて処刑するっていう噂を聞いて……ここまで来たってわけ」
つまり……理由は、私達と同じって事だよね……
「それにしても、驚いたなぁ……たった一人が捕まっているかと思ったら、それが嘘で……同じ嘘に引っかかった三人もの龍騎士と会えたんだもん。運がいいのか悪いのか、よくわかんないや」
……ま、まぁ……確かに、わかんないね……
お兄ちゃん達もそうなのか、引きつった笑みを浮かべる。
と、そのときだった。私の頭に、声が響いてきたのは。
『小夜! 聞こえる!?』
声からして、艦長さんだ。
でも、いきなり通信を使ってくるなんて……
『うん。聞こえるけど……艦長さん。どうしたの?』
私は、心の声で話した。
わざわざ言葉に出さなくても、こうやって会話ができる……それが、私が防御系以外に覚えた、唯一の技なの。
私は、艦長さんから通信が来たことを、お兄ちゃん達に伝えた。
『……龍騎士は、いた?』
『ちょっと予定と違ったけど、黄の龍騎士さんが仲間になりました』
『そう。だったら、今すぐにそこから離れて。それと、艦には戻らないこと』
『ど、どう言うこと?』
『実は、今近くに……ディアドラゴの特殊部隊……しかも、かなりの数が、うろうろしているの。どうも、そっちの町に向かっているようだわ。だから、貴方達が帰ってくるところを見られたり……艦が発進するところを見られたりしたら、襲われるわ。だから、海に逃げて。適当な無人島についたら、連絡を頂戴。長くても、2〜3週間あたりで出発できると思うから』
『……わかりました。じゃあ、私はそれをお兄ちゃん達に伝えます』
『頼んだわ。その中で、私達と交信する術を持つのは、小夜だけだからね』
もしかして、こうなることも見越して私をこっちによこしたのかな……
あ、そうだ。お兄ちゃん達に、ちゃんとこのことを伝えないと。
「あ、あの……艦長さんが言ったんだけど……」
私は、それらをすべて、包み隠さずに話した。
と、タイミングがいいのか悪いのか……
「不審者発見! 捕縛に入る!」
と、兵士達が大量にやってきちゃった……
私達は城の入り口にずっといたんだけど……彼らのやってきた方向からすると、普通ならば逃げ場は城の中しかない。だけど……おにいちゃんたちは龍騎士。普通じゃない。
「捕まって、たまるか!」
「同感だな。ベネ、お前……飛べるのか?」
「うん。一応」
「では、はやく逃げましょう」
「じゃあ小夜。はい」
お兄ちゃんは、両手の手の平を上にして、差し出した。……つまり、私を抱っこしていく、というわけだよね。
既に兵士達は動き出しているので、急がないと行けないのはわかっている。それに、お兄ちゃんに抱っこ去れて空を移動するのは、初めてじゃないし……私は、ホンの少し躊躇してその手に体重を預けた。
抱えやすいからなのか、やっぱりお姫様抱っこ……
「じゃあ、行くよ!」
お兄ちゃんの掛け声と共に、四人の龍騎士が飛翔した。
それと同時に、お兄ちゃん以外の龍騎士が、牽制程度に氷の矢、枝の矢、雷の矢を発した。
叫び声とかが聞こえてくるけど、怪我人はほとんどいないみたい。追っ手もないみたいだし、これは安心していいみたい。
乾燥した風が、髪を揺らす。
そう言えば……髪の毛、ぼさぼさになっちゃった……
「……小夜。適当な無人島、って言ったよね?」
「うん。私が通信魔法を使えば……その通信場所を逆探知して、場所を特定するみたい」
あ、潮の匂いがしてきた。
もう、海岸線まで着ちゃったみたい。龍騎士って、速いんだ……
先頭を飛んでいるのは、マールさん。それに続く形で、私を抱えたお兄ちゃんが。その隣に柚ちゃんが。ベネちゃんは少し遅れたところを飛んできている。
「適当な無人島ったってなぁ………」
「肝心なのは、食料のこと。飲み水のことでしょう。飲み水はマールさんが出してくれればいいと思いますし、何かしらの果実、または種、あるいは苗があれば、私がそれの成長を促進させ、育てることができます」
「あ、動物が暮らしているところは大概、ちゃんと食料とか水とかが整っているんじゃないかな。特に、肉食動物のいるところは」
「それよりも、身を隠せる洞穴とかあったほうがいいと思うよ。あたしはちょっとした丘とかあれば、そこに穴をあけれるからさ」
えっと……現在の意見を総合すると。
少なくてもいいから、果実なんかがあって、動物が住んでいて、洞穴が作れるくらいの丘がある無人島……」
「……あ、いい場所があるぞ。近くに、ゴースト島ってのがあるんだ。昔は町が一つあって、エーアデと交易していたらしいんだけど、不況だかなんだかしらねぇが、町自体が落ちぶれて、今ではまったく人がいないらしい。代わりに、ゴーストとかが出るとか言われていてな、それが名前の由来なんだ。……俺がフレイと会う前に旅してた頃、そこにもよったんだが、誰もいねぇ。あるのは老朽化した建物と、遺跡化した城ぐらいだな」
ご、ゴースト……幽霊……?
私の身体は、その言葉を耳にしたとたんに震え出した。
「……怖いの?」
お兄ちゃんが、私を気遣ってか小声で話しかけてきた。
「う、うん……」
思わず、頷いてしまう。
「マール、そのゴーストって、何なの? データで構築されたこの世界にも、幽霊とかいるのか?」
「あ? ああ……ゴーストって言っても、そんな神秘的なやつじゃねぇぞ。大体、死ぬと身体を構築しているデータがはじけ飛んで、消えるよな? だけど……完全にはじけきれなかったデータってのが存在し、それら同士が結合してしまうことってのが、たまにだけどあるんだ。特に、力の弱い奴が中途半端な方法で敵を倒したときなんかな。そして、その結合した奴ってのが、『ゴースト』。ま、そいつ等が出たって問答無用で倒せばいいだけだ。ゴーストって言っても、普通の生物と何ら変わりはないからな」
「そうか。ありがとう、マール。……だってさ」
お兄ちゃんは、マールさんにゴーストの正体を聞いてくれたみたい……
つまり、怖がる心配なんて、ないって事を……
確かに、相手は正体不明ってわけじゃないんだし……それに、いざとなったら龍騎士が四人もいるんだもの! 大丈夫よね!
「ありがとう……お兄ちゃん」
私はそう伝えて、ぎゅっと腕の力を強めた。
「……と、とにかく、ボクと小夜は異存ないよ」
「私も、依存はありません」
「あたしも。それにゴースト島って一回いってみたかったんだ!」
「よし、わかった! 行くぜ、皆の衆!」
「「「「お〜〜〜〜!」」」」
行き先は決まった。
場所はマールさんが知っているので、マールさんに付いていけばいい。
私達はそのゴースト島へと、向かった。
そこに、何が待っているかも知らずに……
TO BE CONTINUED
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