ドラゴテールアドベンチャー
第9話 『猛特訓』

 

作者名:カイル


 時刻は、夜の十二時を回ったところ。
 そんな時間に、ボクは訓練をしていた。

「てぇい!」

 剣を振るい、『目標』を一刀両断にする。
 と、次の瞬間には大量の『目標』が現れた。
 だけど、あわてちゃいけない。
 なんのための、鳳炎と凰炎だっていうんだ。

「いけぇ!」

 鳳炎と凰炎を放ち、更に自身も『目標』を斬るために、地を蹴る。
 一瞬後、現れた『目標』をすべて切り落とした。
 が、次の瞬間に視界がぐらついた。

「う……」

 そろそろ、限界だね……
 だけど、まだまだ!
 限界を超えてから『力』を使用して、それにならしていかないと……
 修練にならない。

「小夜、マール……もうちょっと早くしてくれない?」

「え、でも……」

 小夜が、少し身を縮めて、躊躇した。
 気遣ってくれているのだろうか?

「小夜。アイツにも、なんか考えがあるんだろ? 付き合ってやろうぜ」

 そういって、マールは足下におちていた石ころを拾って、速射砲の如く投げつけた。
 数を数えている暇なんてない。
 ボクと、鳳炎凰炎はその『目標』……石ころを、切り落とす。
 『炎』を使う余裕はないので、直接攻撃でしかそれを落とすことができないのだ。
 ちらりと小夜をみると、彼女は遠慮がちに手に持っていた特殊な形をしたボウガンを構えた。
 石ころを装填し、放つことができるというそれをつかって石を放つ。
 多少遠慮がちな撃ち方だったけど、マールの投げる奴に気を取られていたらあたってしまう。
 だから、二人の放つ石にちゃんと気を配って、それを打ち落とすようにしなくちゃいけない。

 そして……

「あ……」

 体中が脱力感に苛まれた直後、鳳炎と凰炎が宙に溶けるようにして消えてしまった。
 鳳炎と凰炎を使って打ち落とすつもりだった石が、そのままこっちに向かってくる……

「はうぅ!」

 剣で打ち落とそうとしたのだけれど、腕に力が入らなくてその石を打ち落とすことはできず、結局額にぶつけてしまった。
 で、そのまま地に伏してしまった。

「あ、ごめん! お兄ちゃん」

 小夜が、心配そうな顔でこちらに向かってくる。

「いや……いいよ、これくらい。だいたい、これを受けないようにっていう訓練を、ボクはしているわけだからね。避けられなかったボクが悪いんだ。小夜は全然悪くない」

「そ〜だぞ」

 と、マールが何処からともなくやってきた。
 手には、手頃な大きさの石が数個、握られている。

「今日のところは五分十一秒だったぜ。昨日より、三十秒も延びてるじゃねぇか」

 まぁ、確かにこの一週間、タイムは伸びてきている。
 マールとの組み手のあとにこの鳳炎と凰炎の実戦使用訓練をしているのだけれど、初めは一分にも満たなかった。
 特訓の成果か、わずか一週間で実戦でもタイムを五分以上にすることができたってわけだ。

「いやぁ、それじゃ意味無いよ。目標は1〜2時間ぶっ通しで、それでも余裕があるってくらいじゃないと」

 そう、そうじゃないと意味がない。
 いっつも強い相手……この前戦った、あのベネの姉っていう狂戦士のような相手と、いっつも1VS1という状況で戦えるわけがない。
 アイツと同程度……もしくはそれ以上の敵が複数で襲ってくることだってあり得るのだ。
 だとしたら、今のままじゃいけない。
 まだボクは、龍騎士の力を解放しきっていない。
 だからこそ、こうやって特訓をしなくちゃいけないんだ。

「まぁ、今日は休めよ。俺はまだ大丈夫だから、もう少し特訓する。お前はもう休め」

 分かった、と返事をして立ち上がろうとした。
 だけど、腕に力がはいんなくてすとんと、尻餅をついてしまう。

「う〜〜、だ〜れ〜た〜」

「もう、お兄ちゃん。無理しなくて良いのに」

 小夜がそういって、ボクに手をさしのべてくれた。
 ボクはその手に捕まって、やっとこさといった感じで立ち上がる。
 この一週間。特訓をしたあとは小夜に手を借りて立ち上がり、小夜の肩を借りて食堂まで行く、というのが日課になっていた。
 食堂まで行くってのは……お腹減っちゃったから。
 もう、お腹の虫がぐーぐーと音を立ててストライキを起こしそう。
 小夜の力を借りなきゃ歩くこともままならないってのは情けないけど、これも自分で選んだ道だ。
 これくらいは我慢しなきゃ。

 ボク達は食堂に、普段の倍の時間をかけてやっと到着した。
 思わず、ため息をついてしまう。

「じゃあお兄ちゃん。いつもどおりのもので良いんだね?」

 小夜はそういって、食堂の兄ちゃんに注文をしにいった。
 取り敢えずボクは、机にベターって突っ伏した。
 こうしているとすっごく楽……

「あの〜、更夜さん?」

 ……ん? 誰だろう、こっちは疲れているのに……
 ちらりと、顔をずらして声のしたほうに向けてみた。
 そこには、柚ちゃんと、神坂姉弟がいた。

「あれ〜? 子供はもう寝る時間だよ〜」

 かなり疲れているせいか、ちょっと間延びした声になってしまっている。
 けど、彼女たちはボクの言葉なんて全く気にしていないらしい。

「更夜さん」
「フレイさん!」
「ふ、フレイさん!」

「あ〜、声大きいから……頭に響くよ〜」

 ただでさえこっちは疲れているってのに……

「いまはちょっとやすませてよ〜。おなかもへってるし〜」

 と、そこへ小夜が、トレーに食料をのせてやってきた。
 肉の実の、何とも良い匂いが鼻腔をくすぐる。

「はい、お兄ちゃん。いつもの通り、ココナッツミルクのジュースと肉の実の雑炊」

 身体を起こして、小夜がトレーを机の上に置けるようにと、配慮する。
 そして、レンゲを手に取って、猛然と雑炊をかっこんだ。
 喉に詰まりそうになったときは、ご丁寧についているストローを無視して、ジュースを喉に流し込む。
 何分経ったかは分からないけど、多分短い時間で、完食した。

 だけど……まだたりない!
 今ので、なんとか必要最小限の体力は戻ってきた。
 が、あくまで必要最小限なので、足りないものは足りない。
 まぁ、これもいつものことなので、小夜がもうそろそろ次の食事を持ってくる頃だ。

「はい、更夜さん。肉の実の唐揚げ、10ピースとフライドポテト。あと、烏龍茶です」

「ありがと!」

 そういって、目の前にあるものを、口に運んだ。
 基本的に今さっきと同じ食べ方。
 違和感に気づいたのは、唐揚げを全部食べおえてからだった(ポテトはまだ二、三本残っている)。

「……あれ。柚ちゃん?」

 そう、今さっき料理を運んできたのは、小夜じゃなくて何故か柚ちゃんだった。

「はい、柚ですよ?」

 にこにことしながら、彼女はこちらを見つめていた。
 そういえば、お話があるとか言ってたな……

「お話は貴女のお腹がいっぱいになってからで良いです。次の次が最後のオーダーでしたよね?」

「うん」

 ちなみに次は、S定食10人前である。
 S定食のSの意味は……あとで分かるからイイや。
 そして最後がデザートのビッグパフェ二人前。

 ……尚、この艦の食料のほとんどは、ボクとマール、そして小夜がかき集めている。
 すなわち、これだけの量を食べても誰も文句は言わないのであった。
 だいたい、ボク達がかき集めた食料の量って、この程度じゃないし。

「ちょっとフレイさん! この料理の量って何!?」

 と、夏麟が巨大なおぼんを掲げてやってきた。
 一人でやっと一つもてるって位大きい、お盆。その上に、ボクの注文した定食はあった。
 ほとんど体力も戻ってきているので、全力で……行く! っていうか食う!

「ありがとね!」

 と夏麟の言葉も無視して礼を言い、ボクは夏麟の持ってきたS定食を食べた。っていうか、掻き込んだ。

 がつがつがつがつ。
 むしゃむしゃむしゃむしゃ。
 ずーずーずーずー。
 ごぐごくごくごく。

「よし、次!」

 成人大人十人分はあろうかというのが、このS定食である。
 当然、S定食のSは、スペシャルのSである。
 食べっぷりに呆れたのか、夏麟は肩を落として厨房方面へと去っていった。

 今度は小夜と夏麒が、一緒に持ってきた。
 お箸を片手に、次々とやってくるそれを、お腹と流し込む作業が、しばらく続いた。

「最後、デザート!」

 最後のデザートは、ビッグパフェ二人前。
 どれくらい大きいかって言うと……人間の上半身は軽く越すね。
 それを、軽く平らげる。
 どうやら龍騎士って、人間の頃と比べると胃袋のほうもかなり強化されているみたいだ。
 いや、もしかしたらこっちの世界では、食物を摂取することで疲労回復ができるのかもしれない。ゲームなどで言う、回復アイテムみたいなものなのかなぁ……あれって、使用制限は体力いっぱいになるまでだし。

 ま、どうでもいいか。

「……更夜さん? 満腹ですか?」

「うん。もう食べられないや……」

 当然です、と柚ちゃんはため息をついていたけど、気にしない気にしない。
 柚ちゃんの隣には、額に汗をひっつけている夏麟と、夏麒の姿があった。
 ちなみにボクの背後では、小夜が軽い食事をとっていた。ボクのメニューの持ち運びでお腹がすいたから、だそうだ。

「まぁ、座りなよ。で、話って何?」

 三人に座らせてから、ボクはシンプルに訊いた。
 そして柚ちゃんは、単刀直入に返してきた。

「はい。私たちに、稽古を付けて下さい」

 ……………はい?

「あの、『ケイコ』って、あの稽古だよね。特訓とかの」

「はい。そうですよ? 間違っても、人の名前じゃありませんからね」

 正直、ギクリと来た。
 本当はそういったボケをかまそうかな〜、なんて考えていたんだけど、流石に面白くないと思ってやめておいたのだ。

 閑話休題

 正直、ボクには何故そんなことを言い出すのかが理解できなかった。
 龍騎士は、力を持っている。そして、その力を使用するための知識も与えられている。
 それらを元にすれば、稽古を付けてもらわなくても充分に鍛錬できるはずだ。
 なのに、彼女たちはボクに稽古を付けてくれと言っている。

「つまり、ボクに師匠になれって事?」

「はい、それでも構いません」

 冗談で言った言葉を、柚ちゃんはにこにこしながら受け止めてくれた。

「なんでしたら、これからお師匠サマ、とお呼びしても良いですよ?」

「はは〜、お師匠サマ〜」
「お、お師匠サマ……」

 柚ちゃんの冗談めいた口振りに、これまた冗談っぽくボクのことを『お師匠サマ』と呼ぶ神坂姉弟。特に夏麟のほうはノリノリである。

「……お師匠サマって……それやめて」

 対するこっちは、冗談でもなんでもなく、本気でそう思った。
 そんなところをティアに聴かれたりしたら……
 絶対、からかわれる。間違いなく。

「アハハ、更夜さん。冗談に決まってるじゃないですか」

「冗談でもやめてくれよ……ティアに聴かれでもしたら、大変なことになるし」

 その言葉を聞き、彼女たちはなるほど、と頷いた。

「ま、冗談はともかく。特訓の件ならべつに構わないよ。小夜だって、防御魔法の腕を上げようって、一緒に特訓してるし」

 そのやり方としては、小夜の張った防御壁にボクが問答無用で本気の攻撃を仕掛ける、といったものである。
 当然、防御壁は関係ない場所に張られたもので、誰にも被害は及ばない。
 そのおかげか、小夜の防御魔法のレベルが、段々上がっていっている。
 初めはボクの放つ本気の火炎弾を十個、防げればいいほうだったんだけど……今では、その三倍をぶち当ててもまだ余裕があるくらいだ。

「……先を越されましたね」

「え、なんか言った?」

「いえ、なにも」

 ……?
 独り言かな……

「じゃあ、明日の朝御飯のあとからにしよう。今日はもう遅いし、眠いからね」

 柚ちゃん達におやすみを言ったボクは、ちょうど軽食を食べ終えた小夜と部屋へと足を運んだ。
 その、途中で。

「あ。フレイ……」

 見るからに気を落とした様子のベネが、こっちをみていた。

「どうしたの、ベネ」

「うん……話があったから、探してたんだけど……もう、遅いから明日にするね」

 話……?

「……できれば、小夜にも訊いてもらいたいんだ。でも二人とも、疲れてるでしょ?」

 確かに、疲れていると言えば疲れている。
 だけど余裕があるって言えばある。
 じゃあ問題は……

「小夜、眠い?」

「え? ううん。なんか、目がさえちゃってるよ。そんな疲れがたまってるって訳じゃないし」

「ってわけで、二人とも大丈夫だから。話があるんなら、訊くよ?」

 こくん、と彼女は頷いて……そして、無言で歩き始めた。
 ついてこいって事らしいけど、こうやって喋らないベネってのも珍しい。

「どうしたんだろう、ベネ」

「うん。なんか、悩んでるようだったけど……」

 ベネについていきながら、ボクは小夜と話した。
 思い当たること……
 なんか、ひっかかっているんだけど、それがどうしても思い出せずにいた。

「でも、なんでボクと小夜なんだろう。ボクよりマールのほうが、人生経験豊富でいい意見が出そうなのに」

「……こっち」

 彼女は、ボク達を人気のないところへと連れていこうとしているらしい。
 そしてこの時間、最も人のいないところといえば……

 甲板であった。艦は雲の上にいるらしく、空を見上げれば星々が煌めいていた。今日の月は三日月。こっちの世界の月も、ボク達の世界の月とほぼ同じらしい。
 そんな風情のある光景であるが、風は思っていたよりも強く、そして上空であるために寒気が襲ってくる。
 ボクはすぐにあたりを暖気で囲った。変身せずとも、エアコン程度の熱量操作ならできるようになったのだ。
 これで、小夜も寒くはないだろう。

「で、話って何?」

 話しにくいことなのだろうけど、だからってあっちから振られるのを待っていては、日が昇ってしまう。
 ここはこっちから話させてしまうほうが良いだろう。

「……フレイはさ。この前、あたしの姉さんと戦ったよね」

 ……姉さん?

「あ、ほら。ディアドラゴの軍勢がいっぱい押し寄せてきたときに戦った……狂ってる奴だよ」

 姉に向かって狂っている奴ってのはちょっと……
 ってちょっと待て。あれが、姉?

「あのときの、狂戦士がベネの姉さんなの?」

 ベネは、こくりと頷いた。
 正直言って、初耳である。

「あ、そっか。フレイには話してなかったね……」

「フレイにはって、小夜は知ってたの?」

 ボクの疑問に、小夜はこくりと頷いた。
 そっか、知ってたのか。

「でも、私が知ってるのはベネさんのお姉さんがあのとき戦った人って事だけだよ。それ以上のことは、何も……」

「うん、それだけしか言ってないしね。こうやって、フレイと小夜にここに来てもらったのは、さっきも言ったとおり……姉さんのことについて」

 彼女は、ボク達に背中を見せた。
 どんな表情をしているかは分からないけど、ボク達に見せたくない顔だと思うことで、納得した。

「姉さんね、死刑囚だったんだ。罪は殺人、危険ウィルス保持、麻薬の常習犯……いろいろな罪が重なって、それで死刑を宣告されたんだ」

 ベネは淡々と語っていく。
 それでもボクは、彼女がいったい何を言いたいのか、分からずにいた。

「だからさ。姉さんが攻めてきたら、遠慮せずに倒して」

 ……え?

「倒してって、ベネ。それがどういう意味か、分かってんの?」

「分かってるよ。これ以上なく。分かっていて、そう言ってんの」

 彼女の目は、ボクの目を真っ直ぐに見つめていた。
 そういうことを言われても、困る。

「いいの? その、君のお父さんやお母さんが悲しんだりは……」

「しないよ。だって、もうこの世にいないから」

 思わず、息をのんだ。
 謝ろうと口を開く前に、彼女はこういった。

「姉さんに……殺されたから」

 今度こそ、ボクは言葉を失った。
 なんて声をかければいいか。それが分からなかった。
 息を出すことすら、躊躇ってしまう。

「気にしなくて、良いよ。こっちはもう、覚悟……できてるから。姉さんはもう、ただの狂人だよ。薬漬けで、人と戦うことにしか快楽を見いだせないんだから。あたしじゃさ、いざって時に決断が鈍りそうだから。だから、フレイに頼もうって思ったんだ」

 ベネは困らせることばっかり言うなぁ。
 なんで、そんなことにボクを頼るんだろう。

「ベネ。何で、ボクを頼るの? ほら、マールだっているじゃないか」

「あんたらが、兄妹だから」

 ………?

「兄妹だからさ。あたしの今の気持ちも、ちょっとは分かるかなって思って」

「そういわれても、分かんないよ。そういうことは絶対ないと思うけど、もし小夜が同じようになっても……ボクは小夜を誰にも殺させたくなんかない」

 ボクは、そういって隣にいた小夜をみた。
 何か、呆然とこちらを見つめている。

「やっぱり、わかんないか。今のあたしの気持ちは」

「分かんないよ。ボクはベネじゃないし、ベネの心の中を読むことだってできないんだからね」

 そりゃそうね、と彼女は舌を出していった。

「とにかく、あたしが言いたいことは……姉さんが来ても、あたしに構わず倒して。ホントならさ、自分でやった方がいいんだろうけど……ね」

 返事は、できない。
 だいたい、そういう因縁だかなんだかっていうのを言われて、気にするなって言うほうが無理である。

「フレイにとってはリベンジ戦になるだろうし……小夜にとっては、フレイを殺しかけた相手だから、ね。戦う理由がないって訳じゃないでしょう? って、何言ってんだろうね、あたし」

 最後の一言が、自嘲した感じだった。
 彼女も、苦しいんだろう。
 だけどボクは、引き受ける、とは言わない。代わりに、こういっておいた。

「戦う理由とかそういう問題じゃないよ。……君の姉さんの事は任されることはできないけど、ボク達が戦いをやっている以上、ボクが君の姉さんを手に掛ける可能性だってある。その時はその時だ。
 ……もし、ボクと小夜が君の姉さんを倒したとしても、それは君とは関係ないところで戦って、勝敗がついたって思っていてよ。ボクは勝手にする。だから、ベネも勝手にしなよ。君の姉さんと戦うか、戦わないかって事はさ」

 ベネは、軽く頷いただけだった。
 話は終わったかな、と勝手に納得し、ボクは小夜のほうに視線をやった。

「……結局、口が挟めなかったよ」

 肩を落として、小夜がそういった。

「気にすること無いよ。ボクは自分勝手な事言っただけだし。もう遅いし、部屋に戻ろっか」

 こくん、と頷いたのでボクも頷き返す。
 満天の星空を見上げているベネを残して、ボク達は部屋に戻っていった。


 次の日の朝。
 ボクは昨日頼まれていた柚ちゃん達の特訓を始めた。
 早朝、いつもより早い時間にご飯を食べて、訓練室に集合した。
 真剣な表情の三人。まぁ、まずは指導する前にみておかなければ。彼女たちの、戦い方を。

「じゃあ、まずは……三人、一気にかかってきてみて」

 ボクがそういったら、思いっきりブーイングされた。
 ……ちゃんと、理由があるのに。

「ボクも特訓するつもりなんだ。鳳炎と凰炎を使うから、数的には3対3だよ」

「……更夜さん。もしかして、私たちを侮ってません?」

「そんなこと無いよ。第一、この勝負は特訓じゃなくて、その前段階の君たちの戦い方をみるって意味があるんだ。一人一人やってたらめんどくさいから、こうやって一気にやるって訳」

 その説明で、なんとか三人は納得したようである。
 なお、今回のギャラリーは小夜と、マールである。
 ちなみにベネは現在、見張り中である。

「よ〜し、じゃあ俺が初めって言ったら、始めるんだぞ。十分ぐらい待ってやるから、その間に作戦を考えるなり戦闘準備をするなり、自由にしておけ」

 マールがそういって、小夜の横に陣取った。
 二人の周りには、厚い防御膜が張られている。これは小夜の特訓の成果だ。特訓のおかげで、かなり強力な攻撃にも耐えられるようになったのだ。

「よし。じゃ、今回ばかりは俺が語り部をする。……客観的に見た方が、こういう場合はいいからな」

 おいおいマール。それはいっちゃいけないことだろう?
 っと、まぁいいか。

 三人は、ひそひそと何かを話し合っている様子だ。
 何を計画しているのかは知らないけれど……
 簡単には、負けてあげないからね。
 さて、さっさと鳳炎と凰炎を呼び出す準備をするか。


 フレイも、柚・神坂姉弟も……準備はできたようだな。
 よし、それじゃあそろそろ号令と行くか!

「それじゃあ、いまからフレイと柚・神坂姉弟の対決を始めるぞ。ルールは俺とフレイがいつもやっている組み手と同じで、相手に一撃を入れるか降参を認めさせる。それ以外は何でも有りだ。だけど、俺が危険だと判断したらすぐにやめさせるぞ」

 その確認に、全員が頷いた。
 よし、それじゃあオッケーだな。

「じゃあいくぞ! ……初め!」

 言った瞬間、フレイは鳳炎と凰炎を生み出した。
 瞬時にそれは行われたため、柚達が近づく前に鳳炎と凰炎は出現した。
 柚たちは、それぞれを一対一で相手をするつもりらしい。柚はフレイに、夏麟と夏麒は鳳炎、凰炎(俺じゃあどっちがどっちかみ分けられない)の、それぞれに向かっていった。
 だが、フレイはそれを許さなかった。フレイは鳳炎凰炎を上空に移動させ、そして自身は柚と夏麒の二人を相手に、押さえ込んだ。
 そして上空へと移動した鳳炎と凰炎は、夏麟へと襲いかかった。
 鳳炎と凰炎は、それぞれが火炎弾を夏麟へと放つ。
 流石に二匹いっぺんに襲われることは予想外だったのか、反撃も防御もできないまま、まともに食らった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 まぁ、どうやらあの二匹の放った炎はそこまで殺傷能力はなく、ただの虚仮威しだったらしい。悲鳴を上げたものの、見たところ外傷はほとんどない。だが、素早く迫る二匹の攻撃を避ける術は、現在の夏麟にはなかった。
 結果、翼の一撃を背中に浴びてしまい、夏麟は地に落ちた。
 最も、攻撃しなかったほうが夏麟のクッションになったおかげで、怪我はほとんどなかったようだが。

「夏麟さん!?」
「夏麟!」

 柚と夏麒は、夏麟のあげた悲鳴に思わずそちらのほうを向いてしまった。
 明らかな、油断だった。
 そしてそれを逃すほど、フレイは甘くはなかった。
 剣の柄をつかい、二人の腹部にそれぞれ一撃を入れた。
 この瞬間、フレイの勝利が決定したのだった。

「戦闘途中に、よそ見はいけないよ」

 二人に一撃を入れたあと、フレイはそういった。
 全く、その通りだった。
 二人の耳に入っていたかは、この際俺の知ったことではないけどな。


「うう、負けちゃいました……」

 柚ちゃんが、肩を落として落ち込んでいる。
 慰めることもできず、私はただ呆然とそこにいるだけだった。

「何で? 同じ龍騎士なのに、何で三対一で負けちゃう訳?」

 疑問をとばしまくっているのは……言わなくても分かると思うけど、夏麟ちゃんだ。
 そしてお兄ちゃんは、それに頬を人差し指で掻きながら、苦笑いを浮かべている。

「おいおいお前ら。あれじゃあ負けても当然だぜ? 戦術の基本も、戦闘の基本も、全くなっちゃいなかったからな」

 助け船を出したのは、マールさんだった。
 マールさんは、相変わらず不敵な笑いを浮かべている。

「戦術の基本と戦闘の基本? なによそれ」

「なにいってんだ。フレイ、鳳炎、凰炎VS柚、夏麟、夏麒の3VS3だからって、何も一人に一人ずつ行く必要なんて無いんだぜ? こういうときは、まずは敵の司令官をブッ倒す。そうすれば命令系統がずれて、敵軍はたいてい壊滅だな。まず、これが戦術だ」

 お兄ちゃんはそうそうと頷いて、柚ちゃんは何処から取り出したのかメモを取り始め、夏麟ちゃんはふてくされた顔で話を聞いて、夏麒君は普通に話を聞いているみたい。

「んで、仲間の悲鳴が上がったからって、戦闘途中によそ見をするのはいただけないなぁ。心配するのは全く、いっこうにかまいはしないが、戦いから手を離したら、即死、だぞ」

 マールさんは、特に『即死』のところに力を入れて話した。
 ……確かに、さっきの戦いが本当の殺し合いで……鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんが放った炎の弾も、あんな虚仮威しじゃなかったら……
 ううん、二人が倒れたあと、すぐに夏麟ちゃんのところにお兄ちゃんが向かっていたら……

 そのことを考えると、私は背筋に冷気を感じた。
 ぞくぞくっとする感覚が、背筋を一瞬ではいずり回る。
 それは、友達がそんなにも危ない目に遭うかもしれないと言う、危機感から感じたものなのかもしれない。

「……まぁ、とりあえず。三人とも、組み手の練習をすること。そして自分で悪いと思ったところは自分で直すこと。あとは基礎鍛錬を欠かさずに、ってのがボクができるアドバイスだね」

「え、稽古を付けてくれるんじゃなかったんですか?」

「いや、ボクは人に教えられるほど腕が良い訳じゃないからね。だけど、組み手の練習だったら付き合うよ。大切なのは、自分で自分の悪いところを見極めることだから、じゃないと実際に役に立たないんだよ」

 それは、この前ここで一緒に鍛錬をしていたある一人の魔法戦士からの受け売りということを、後に付け加えた。 それにしても艦に乗っている人って、結構多くて名前を全部覚えられないよ。

「鍛錬方法は、神龍が知ってるから、各自で訊くこと。じゃあボクは自分の鍛錬に集中するね」

 そういってお兄ちゃんは、さっさと場所を変え始めた。
 場所を変えたと言っても、そこから少し距離を取っただけ。
 私はいつもどおり、お兄ちゃんについていくことにした。柚ちゃん達のことも気になるんだけど、やっぱりお兄ちゃんの近くにいたいから……

 お兄ちゃんは二本の剣を鞘から引き抜くと、それを両脇の地面に突き刺した。
 構えは、自然体。身体に余計な力は入っていなかった。
 余計な力といっても、それは物理的なもの。お兄ちゃんの中の『力』が、お腹の下あたり(丹田っていうらしい)に集中する。

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 大きく、息を吐き……

「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 大きく、息を吸う。
 それを何度か繰り返す内に、丹田に『力』が漲ってきた。
 その『力』は無色透明で、肉眼で見れらるものじゃなかったけど……
 私は魔法を使うことが出来るようになったせいか、その『力』の動きをみることができる。

 やがて、その『力』は炎に転換されていく。
 ただ、こちらにその熱は伝わってこない。
 これはお兄ちゃんが、自分の周りの熱量を操作して、あたりに余計な熱が行かないようにしているせいだ。
 お兄ちゃんは、元々炎や熱を司る『赤の龍騎士』だから、そういうのをまともに浴びても無事、ということらしい。
 最近思ったんだけど、そうだったら冷暖房も必要ないし、お料理するときもガス代いらず。明かりは自分の生み出した炎の明かりを使えば、電気代もそこまで必要はなくなる。
 ……何か、すっごく日常生活に適した能力、って言っても過言じゃないのかなぁ?

「お兄ちゃん」

「……小夜か? ちょっと待って」

 お兄ちゃんがそういったあと、お兄ちゃんが纏っていた炎と熱が、一転に凝縮される。
 左の、拳に。

 そこで、お兄ちゃんは目を開いた。

「ふぅ。で、何か用?」

「うん……」

 私は、思い切って訊いてみることにした。

「さっき、どうして夏麟ちゃんを最初に狙ったのかなって。マールさんは相手の司令塔を叩くのが一番って言っていたけど、あの3人だったらどう考えても柚ちゃんが司令塔だなって、思って」

 ああ、それかとお兄ちゃんは頷いた。

「簡単なことだよ。柚ちゃんと夏麒は、徒手空拳と槍……つまり接近戦用の武器。夏麟は銃って言う、遠距離用の武器。一番厄介なのは、ボクの手の届かない場所から援護射撃されることだからね。だから、遠距離攻撃をする夏麟を先に叩いたんだ。戦いってのは、如何にして自分に有利な状況を作れるかどうかって、訊いた。だから、ボクはあの二人を押さえることだけに集中をした。鳳炎と凰炎に、夏麟を攻撃してもらってね。で、夏麟が倒れたあとは柚ちゃんか夏麒を、鳳炎凰炎と連携して攻撃。こういうつもりだったんだ」

 そ、そうだったの?

「確かに、マールのいうことはあっているよ。でもボクが教わったのは、その時に応じて臨機応変に狙う相手を選ぶこと、って事だからね。いやぁ、やっぱり歴戦の人に教えてもらうのは違うよ」

 歴戦の人って、あの魔法戦士さん?
 確か名前は……何だったっけ?

「さて。次は……っと」

 お兄ちゃんは、左の拳に集中した赤い『力』を、今度は右手に移し替えた。更にそれをボール状にして、右手と左手をいったり来たり……キャッチボールでもしているみたい。

「で、次!」

 今度はそのボールを、頭上に投げた。
 って、あれってお兄ちゃんの『力』がたっぷりと詰まっているから、爆発したりしたら大変なことになるんじゃ……

 という私の心配をよそに、お兄ちゃんはその赤いボールを、事もあろうか胸でキャッチした。
 だけどそのボールは、その胸に吸収されていく……
 吸収された赤いボールは、内から吹きだしてお兄ちゃんに纏っていった。
 だけどやがてその纏われていた『力』も、無害なエネルギーへと転換されていった。

「よし、いい感じだ。じゃあ小夜。いつもどおり、頼むよ」

「……うん」

 いつもどおり。
 それは、矢以外のものも放つことの出来るボウガンを使って、お兄ちゃんに向かって石ころを放つというもの。
 そうしてお兄ちゃんは修行しているんだ。
 鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんの。
 私はそれを手伝っている。私の、防御壁の強化の修行もしてもらっているし。

 腰からぶら下げたボウガンを、私は手にとった。そして、落っこちていた石ころを装填し、撃つ。
 お兄ちゃんは瞬時に練り上げた二つの『力』を宙に放り、言った。

「我が力を糧にして ……生まれいでよ! 鳳炎! 凰炎!」

 私が石ころを放ったのとお兄ちゃんが鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんを放ったのは、同時だった。
 そして、私から向かって右の炎の鳥が、翼を使って石を切り裂いたのは、更に一瞬してからだった。

 速い……

 お兄ちゃんの鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんを繰り出すスピードが上がってきている。
 この一週間で。

 このボウガンだけじゃ、お兄ちゃんのスピードに追いつけない。
 それは、お兄ちゃんの修行にならないことを意味する。
 だから私は、次の手に入った。

 お兄ちゃんの周りに、ちっちゃな、球形の防御膜を張った。
 大きさは赤ちゃんの握り拳ぐらい。それが、十個。

 お兄ちゃんは、私の思惑を悟ったようで、現れた防御膜を斬りつけようとした……けど、その防御膜は真っ直ぐにお兄ちゃんの頭に向けて動いた。

「え…?」

 それが予想外だったのか、お兄ちゃんはまともにその防御膜を頭に受ける。
 だけどダメージはないはず。だって、あの防御膜はシャボン玉と同じぐらいの強度だから。
 触ったら壊れる程度の強度。

 私は今度は、生み出した全ての防御膜を動かした。
 流石に全ての防御膜を自在に動かせるわけがないから、私の意識した防御膜以外は、単調な動きにしかならない。
 それでも、私は必死に防御膜を動かした。
 お兄ちゃんに当てようと、動かした。

 どれほど、そんなことを繰り返しただろうか。
 不意に、鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんが消えた。

「ちょ、ちょっとストップ……流石に、疲れたよ……」

 えっと。そういえば、防御幕を張ってそれを動かすことに専念しすぎて、時間が経つのを忘れちゃってたみたい。
 いそいでスカートのポケットから、もはやこの世界ではただの時計と化した携帯電話を取り出して、時間を確認する。
 ……十二時?
 そういえば、この修練を始めたのって、どれくらいの時間だったんだろう。
 分からないから、この修練にかけた時間が、分からない。いつもはストップウォッチ使って、ちゃんと時間を計るんだけどね。

「あ〜〜〜、もう駄目だ……」

 この修行が終わったら、(多分)60パーセントぐらいの確立で放つ言葉を、お兄ちゃんは口にした。
 ちなみに他の言葉は、 「だ〜れ〜た〜」とか、「死、死にそう……」だとか。他にも、「さ、小夜…動けないや。助けて」って言ったこともあったっけ。

「本当にお兄ちゃん、無理しすぎだよ?」

「面目ない」

 お兄ちゃんはこういうけど、無理をすることを辞めようとはしない。
 そりゃ確かに、お兄ちゃんの鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんを出す時間は、初めの頃と比べると格段に上がってきている。しかもお兄ちゃんは、これでまだ『未完成』だって言うんだもの。
 一体、完成型になったら、どうなるのかな?
 鳳凰が、ドラゴンになっちゃったりして。って、そんな訳ないっか。

「もう、お昼の時間だね」

 私は、疲れ切っているお兄ちゃんに肩を貸した。
 本当は、お兄ちゃんが私にいつもやっている運び方(おんぶかだっこ)をしたほうが、お兄ちゃんは楽なんだろうけど……あいにく私の筋力じゃ、とてもじゃないけど持ち上がらない。

「あう〜、そ〜だね〜」

 間延びした声だったけど、気にはしない。だって、いつものことだから。

「はふぅ……いつも悪いね〜、小夜だって疲れてるのに」

「気にしないで。私、自分に対してだったら軽い回復魔法を使えるようになったから」

 でもそれは、本当に軽いもので、どの位軽いかっていうと、通常の傷の治る早さの1.5倍ぐらい。
 そして普通の回復魔法は、通常の5〜6倍ぐらいの早さで治る。これで、私がどんなランクの回復呪文を身につけたか、分かるってものでしょ?
 余談だけどお兄ちゃん達龍騎士は、普通の人の数倍も回復力が優れている。その龍騎士に呪文を使ったら、それこそ一瞬でたいていの傷は治ってしまうみたい。

「まったく、あんたらって本当に仲がいいわねぇ」

 と、後ろから声がかけられた。
 振り返らずとも、声で分かる。
 その声の主は、私たちの目の前へと移動した。
 やっぱり、ベネちゃんだ。どうやら、元気になったみたい。

「まったく。あんたら、本当に兄妹なの? なんていうか、そっち系の恋人に見えるわ」

 え……ええ!
 あ、顔が熱くなって来ちゃったよ……

「人をからかわないでよ〜、ベネ〜」

 うう、そうだよ……
 でも、本当にそうだったら嬉しいかな……

「口じゃそんなこといってるけど、フレイ。あんた、顔赤いよ」

「え?」

 私は、急いでお兄ちゃんの表情をみようと、顔をそっちに向けた。
 だけどお兄ちゃんは、そっぽを向いてしまっていて、正確な表情をみることは出来なかった。代わりに、耳が赤くなっていることは、確認できたけど。

「ま、いいわ。フレイ、あんた最近修行のしすぎなんじゃない?」

「あ〜、何となく、楽しくなってきちゃって〜」

「だからってねぇ。いつまた、姉さんが攻めてくるか分からないのよ?」

 あ。今、ベネ……『姉さん』って、いった。
 今までは、その言葉を言うことも躊躇っていたのに。

「姉さんは狂っているから、一人でここまで来ることなんてあり得ない。誰かが連れてこない限りはね。そして、この艦に攻め入るのに、たった一人を連れてくるはずがない。それ相応の人数をつれてくるはずなのよ? なのに、龍騎士最強のあんたが、そんな調子でどうするの!?」

「え? 龍騎士最強って〜、ボクはそんな強くないよ〜。どちらかっていうとマールのほうが……」

「……自分の実力を、全く理解してないわね、こいつ……」

 お兄ちゃんの言葉に彼女は、溜め息を吐きつつそういった。

「あの、鳳炎凰炎とかいう鳥。あんなのを思いついて、尚かつ自在に操られるようになるなんて、やらないわよ? っていうか、思いつくほうが滅多にないわ。龍騎士になって、そこでとまってたからね、私やマールも。ああいった新しい技を思いつくなんて、考えもしなかったわ。普通の戦術なんかを覚えて使っているだけだったもの」

「…………」

 って、お兄ちゃん!?
 あ、駄目……意識がもう無いようだし、私に全体重をかけてきている……

「すみません、ちょっとお兄ちゃん、やばいようだから、さっさとつれてきます! お兄ちゃん、しっかりして……お兄ちゃん!」

 私は、お兄ちゃんを運ぶために防御壁を横向きに生み出した。それを担架代わりに、押していく。

「お兄ちゃん! 気をしっかり持って!」

「はうぅ……なんか、すっごくねむいんだ……」

「ネ■じゃないんだから、そんな台詞はやめてよ……」

 冗談ではなく、本当にそう思う。

「こっちだって、冗談じゃないんだよ……」

 そういって、お兄ちゃんは大きな欠伸をする。
 別に寝たら死ぬって訳じゃ無いだろうけど、やっぱり心配なのだ。

「き、今日はちょっと……やりすぎた……」

 確かに、そうだ。
 時間を忘れるほど、夢中にやってしまった。

「ほら、食堂まであと少しだから、頑張って……」

 何を頑張れ、なのか。
 自分でもよく分からなかった。
 ただ、今私がすべきことは、お兄ちゃんを食堂まで全速力で連れていくことだ。
 私は覚悟を決めて、足に力を入れた。


「……で、二人とも倒れちゃったと」

 今、ボク達がいるのは医務室だ。
 う〜〜む、再びここにお世話になるとは……しかも、こんなしょ〜もないことで。

 隣のベッドでは、小夜が少しうなされていた。
 まぁ、あれだけ食べればしょうがないかな?

 ……そう、ボク達が医務室にお世話になっている理由ってのは、疲労+食べ過ぎである。
 あまりにも疲れていたために、食堂の兄ちゃんが特別メニューと称して、普通の人なら食べきれない量の御馳走を作ってくれたのだ(味はボクが保証するよ)。
 で、それを食べ過ぎた結果。食べる量に、体力の回復が追いついていかず、倒れちゃったって訳。
 全く持って、バカらしい話である。

 で、さっきの声だけど……
 呆れ気味のティアが上げた声だ。

「他の人からいわれたかもしれないけれど、身体壊すかもしんないから無茶な特訓はやめなよ。ただでさえ、この艦の人員は少ないんだから」

「わ、分かったよ……これからは、無茶な特訓はやめる。約束するよ」

「本当に?」

 うぅ、本当だって。
 こっちだって死にたくはないんだから。

「で、もう部屋に戻るんだっけ?」

「うん。『どうせどっちで寝てても同じなんだから、さっさとここを空けろ』ってドゥシアーさんに言われてね」

 どうせただの疲労回復の為の栄養補給に、肝心の回復が間に合わなかっただけのことなんだから、寝ていれば治る、らしい。
 実際、ボクは一時間寝ただけで治った。だけど普通の人間の小夜はそういうわけにはいかない。
 半日ぐらいで起きるだろうって言われた。それまでは眠らせておかないといけないんだけど、ここにずっととどまることは出来ない。
 ドゥシアーさん、さっきから思いっきり睨み付けてんだもんな〜。

「ははは。ドゥシアーは口の悪さじゃ天下一品だからねぇ。だから美人でいい年なのに、いまだに恋人もいない……」

 ティアの言葉が止まった。
 手術用のメスが、壁に突き刺さったからだ。
 いや、メスだけじゃない。ボクが名前も知らない手術用の器具が、次々と投げられている。
 っていうか、医療道具を投げつけている? あ、今聴診器が飛んでった。

「ウィンスレット! 人の気にしていることを、とやかく言うな!」

 鋭い口調だった。
 ……まぁ、ボクが照準に入っていないから、いいんだけど、いつ照準に入れられるか、分かったものじゃない。
 ここは、さっさと逃げてしまおう。
 ボクは小夜を抱くと、「じゃぁ、ボクは部屋に戻るから」と言い残して、医務室をあとにした。
 ……二人がどうなったかは、お願いだから訊かないでね、知りたくもないから。


 そして。
 一週間が経過した。

「で、組み手やって欲しいって?」

「はい。今度は、一対一で」

 ボクにそういってきたのは、柚ちゃんだった。
 ちなみに神坂姉弟は、姉弟喧嘩なのか修行なのか、一目見ただけでは分からないような事をやっていた。もしあれが姉弟喧嘩だとすれば、壮絶な姉弟喧嘩である。
 多分、修行のほうだろう。っていうか、そう思っておきたい。

「じゃあ、いきましょうか」

「うん。今度は……いろんな意味で、本気で行かせてもらうよ」

 ボクは、不敵な笑い(そう見えるかなぁ?)を浮かべて、そういった。
 本気で行く。これは別に、力だけじゃない。もっと別の……たとえば、戦術とか、そういうものについても、本気を出すと言うことだ。
 ……この一週間。結局修練所に入れてもらえなかったから、ずっと考えていた。
 戦いの方法……すなわち、戦法を。
 それを、試すときだ。

「じゃあ……行くよ」

 ボクは手早く、鳳炎と凰炎を呼ぼうとした。
 だけど柚ちゃんは、それ以上に素早く術を唱え、ボクに攻撃を加えてきた。

「おっと」

 避けたところに、更に風の刃か。
 どうやら、ボクに鳳炎と凰炎を呼ばせないつもりらしいが……

「甘い」

 炎を練り上げ、それを投げつける。
 同時に、自分の周りに炎の結界を張った。
 柚ちゃんから、こっち側が見えない位に火力を強める。
 だけどまだ、鳳炎と凰炎は呼ばない。
 あれには精神集中が必要なのだ。攻撃されたら、集中が解けて呼び出せない。
 だから、まずは……

 炎のなか、ボクは術を唱えた。
 小声で、相手に聞こえない程度の声で。

「鳳凰天昇破」

 ……炎の中に、数羽の神鳥が呼び出された。
 そしてボクは、その中の二匹を飛び出させた。

「呼び出された!?」

 炎の中だから、柚ちゃんはボクのようすがわからない。
 まぁ気配は探っているだろうけど、元々炎の化身である神鳥達の気配は、炎によって紛れてしまっているのでこっちがばれることはない。
 柚ちゃんはいま、さっきボクが呼び出した神鳥を鳳炎凰炎と勘違いして戦っているはずだ。

 ……今が、チャンス!
 ボクは自分の体内の『力』を凝縮し、右手と左手にその『力』をわけた。
 ……集中だ。今は、あの二匹の神鳥に任せるんだ。

「我が力を糧にして……生まれいでよ、鳳炎、凰炎」

 右手と左手に凝縮した『力』を糧にして、鳳炎と凰炎が生まれ出る。
 それとほぼ同時に、爆発音が聞こえた。
 神鳥が、やられたか。
 神鳥は触れられれば爆発するものだ。どうやって神鳥に攻撃したのかによるけど、うまくいけば少しはダメージを与えられているかもしれない。
 ……甘い期待は捨てることにしよう。
 既に柚ちゃんは、こちらに意識を向けている。

「……新撰組考案、草攻剣」

 ぽつりと、ボクは呟いた。
 かの有名な、新撰組が生み出した必殺剣の名前だ。
 ボクは手早く術を唱え、更に神鳥の量を増やした。火力は押さえたものだから、怪我をすることはないと思う。

「……仕掛ける」

「遊びは、終わりです!」

 ボクと柚ちゃんの声は、同時だった。
 次の瞬間には、風で炎が吹き飛ばされてしまった。
 ボクと、数多くの神鳥……そして鳳炎と凰炎の姿が、白日にさらされた。

「……そんなに多くの神鳥を呼び出して、数で勝負、ですか?」

「知ってるかどうか知らないけど、一応教えておくよ。……新撰組の必殺剣の一つ、草攻剣をね!」

 素早く、柚ちゃんは身構える。
 ……そこへ、神鳥が右と左から、わずかに時間をずらし、襲いかかった。
 右と左からの波状攻撃だ。
 右、左と休まずに相手に集団で斬りかかる……
 集団戦法を得意とした、新撰組の必殺剣の一つである。

「……くっ……ですが!」

 と、次の瞬間柚ちゃんは何かを放った。
 すると、攻撃を仕掛けた神鳥が爆発していく。
 まぁ、これは仕方がない。神鳥は元々、触れられれば爆発してしまうのだから、遠距離の技で神鳥を攻撃してしまえば、勝手に自滅してくれるのだ。それは初めから分かっていた。
 だけど、こっちは既に……鳳炎と凰炎を呼びだしている。
 そして鳳炎と凰炎、神鳥はボクでないと見分けがつかないと思われる。
 ……これがどういう意味か、分かるかな?

 ボクは、神鳥と鳳炎を同時に突っ込ませた。
 ボクはその後ろから、斬りかかるべく剣を構え、飛翔した。

「きましたね、更夜さん!」

 うん、きたよ……
 柚ちゃんは神鳥を攻撃したあとにボクとの一騎打ちに持ち込もうとしていたらしいけど……

「ええ!」

 柚ちゃんが放った何かを、鳳炎の翼が切り裂いた。
 どうやらあれは、木の枝か何かだったらしい。
 予想外の展開だったのだろう。柚ちゃんは一瞬、驚愕に目を見開いた……
 が、攻撃の手は休めなかった。

「……突風!」

 こちらに向かい、突風を放ってくる。
 だけどこの翼は……伊達じゃない! 鳥は元々、その翼で風に乗って飛ぶ! だから、ボクや鳳炎、凰炎もそれが可能!
 剣先に炎を灯らせ、攻撃を仕掛けようとした、その時!

「上昇……気流!」

 どん! と、腹部を何かに攻撃された気がした。
 腹部だけじゃなく、広げられた翼にも……

 ってことは……

「うわぁ!」

 見事にボクは、上へ吹き飛ばされてしまった。
 ね、狙ってたの!?

「つぎは、これです!」

 そう言った柚ちゃんが放ったもの……
 それは、数え切れぬほどの『緑の神龍』の『力』を使った攻撃だった。
 詳しく言うならば、風の刃、木の葉の刃、木の枝の矢である。
 これを、避けるには……これだ!

「爆!」

 叫びと共に、自分を包み込むようにして、瞬間的発熱と瞬間的冷却……二つの熱の『+』と『−』という二つの反するものを同時に同地点に発生させることにより、爆発をあげさせた。
 自分自身には、炎の壁を張って爆発からのダメージを抑えて。

「お返し!」

 叫び、炎の弾を放つ。
 柚ちゃんはそれに、風の刃で対抗をする。

「……柚ちゃん」

「なんでしょうか、更夜さん」

 言葉を放っている時も、攻撃の手は休めない。
 うん、柚ちゃんも……この前からすれば、ずっと『戦い』が分かってきている。
 元々知識は神龍から与えられているのだから、あとは『慣れ』が必要だったのだ。
 だけど……まだ、考えが甘い。

「相手は、ボクだけじゃないんだよ?」

 はっとした顔だった。
 背後から迫る凰炎に、気がつかなかったようだね。

「ですが、それは更夜さんも同じです!」

 言われたが、振り向かなかった。
 既に後ろには……

「鳳炎が、後ろは護っているからね」

 そう。背後では、柚ちゃんの仕掛けた攻撃(勝手な予想だけど、多分樹のツルを使ってボクの動きを封じようとしたんだと思う)を、鳳炎が切り裂いているはずだ。
 柚ちゃんの見開かれた眼が、それを如実に語っている。
 だが、驚いている暇はないと判断したんだろう。すぐに凰炎相手に攻撃を開始した。

「……なかなかやるね。この一週間で、見違えるほど戦いに慣れたよ、柚ちゃんは」

「マールさん、ベネさんと組み手を繰り返しましたからね。それに、他の魔法使いさんや剣士さんに教えを請いましたから。私の内にいる、緑の神龍の知識とその経験をあわせれば、この程度は可能になりました」

 うん、それはとっても納得できる。

「……ボクは言った。本気で行くって。だから、まだ実験途中だけど……鳳炎・凰炎の完成型を、ここで使う」

 ボクは、鳳炎と凰炎を近くへと呼び寄せた。
 これが成功すれば、ボク最大の攻撃力を持つ剣となり、またボクの機動力を上げる翼ともなる。
 ……そう、ボクはこれを初めに思いついたのだ。戦術の幅を広げるために。

「卒業試験、というわけですか?」

 体勢を整えながら、柚ちゃんはそういった。
 顔には、不敵な笑顔が浮かべられている。

「卒業も何も、入学もしてないじゃないか」

「でも、弟子入りはしましたよ?」

「……ボクは、何も教えていない。強いて言うなら……先輩かな?
 その先輩から、最後の指導……ってのはどうかな?」

 その言葉に柚ちゃんは、はっきりと、大きく頷いた。
 ……緊迫した空気が、修練場を包み込む。
 既にボクの顔からも、柚ちゃんの顔からも、笑みは失われていた。
 代わりにあるのは、互いを見据える真剣な眼。

「行くよ、柚ちゃん!」

「はい、更夜さん!」

 そういってボクは……鳳炎凰炎に、命を下した……


「もう、お兄ちゃんったら……何処いっちゃったのかしら……」

 私は、ぶつぶつと独り言を言いながら艦内を歩き回っていた。
 行き先は分かっているとはいえ、艦内は広いので少し迷っちゃう。

「やっと修行許可がもらえたと思ったら、私を放って言っちゃうんだから……」

 出てくる言葉は、お兄ちゃんに対する文句だ。
 私だって、修行しているんだから……いつもどおり、手伝わせてくれても良いじゃない。

「っと。やっと、ここまで来れた……」

 少し、ため息をつく。
 お兄ちゃんは龍騎士で、体力だって普通じゃないからいいかもしれないけど、私は普通の人間で、体力も並以下だから、こうやってものすごい差がついちゃうのよね。

「おにいちゃ……」

 私は、ドアを開けて『お兄ちゃん、いる?』と訊こうとした。
 だけど、必要はなかった。
 二人の少女が、そこにいたからだ。
 だけど、二人とも普通の状態じゃなかった。

「お兄ちゃん!」

 私は叫んだ。
 赤い服を着た少女……私の兄である、緋村更夜こと、龍騎士フレイの元へと、私は走った。
 お兄ちゃんは剣を杖にして、それでもなおたつことが出来ない状況にあった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「さ、小夜か。大丈夫……ちょっと、休めば……」

 息が、整っていなかった。
 お兄ちゃんは、大きく息を吸い、それを吐く。
 それをしばらく、繰り返していた。

「あの、小夜さん?」

 と、もう一人の少女から、声がかかった。
 お兄ちゃんが今着ている服を緑色にしたものを着ている、緑の龍騎士……涼風柚こと、龍騎士ヴァンが、そこで尻餅をついていた。

「あ、あの……こういうことを言うのも恥ずかしいんですが……腰を抜かしてしまいました……」

 その言葉に、私は思わず気抜けした。
 お兄ちゃんの状態が少し悪いから、その相手をしていた柚ちゃんもそうなのかと勝手に思っていたために、拍子抜けしてしまったみたい。

「柚ちゃん? どうして、腰を抜かしちゃったの?」

「言わせないで下さい、そんなこと」

 気に障ったのか、ぷいっと顔を背けてしまう。

「え、だって……よほどのことがあったんでしょ? お兄ちゃんはこんな状態だし、柚ちゃんだって……だいたい、二人で何してたの?」

 私の質問に、柚ちゃんは「組み手です」と短く答えた。
 ただの組み手で、お兄ちゃんが力を使い果たすわけがないし、柚ちゃんだって龍騎士なんだから、そう簡単に腰を抜かすはずがない。
 一体、この場で……何が起こったの?

「ねぇお兄ちゃん。何をしたの?」

「はぁ…はぁ…え? な、内緒だよ」

 ………怪しい。
 この二人、何かを隠している。
 なんで、隠す必要があるんだろう。そんな必要、あんまりないと思うんだけど……

「……二人で、私に言えないことをしていたの?」

 いつもは怒ることが出来ない私だけど、このときばかりは自分の怒気を顕わにした。
 もし、お兄ちゃんが、その……柚ちゃんと、あんなこと(ご想像にお任せします)とか、こんなこと(やっぱりご想像にお任せします)をしていたらと思うと!
 怒らずにはいられないよ!

 って、お兄ちゃんの人生はお兄ちゃんのものなんだから、どういう選択をしようと、自由なんだろうけど……
 やっぱり、私は我が侭だ。
 お兄ちゃんのことに関すると、こうも我が侭になってしまう。
 それだけじゃない。きっと私は、お兄ちゃんのためなら、どんなにも意地悪にもなっちゃうだろう。そういう、確信に近いものが、今の私にはある。

「言えないことなんて、何もしてないよ。どうしたの? 小夜。なんか、いつもと様子が違うよ」

 違うよ。今の私はいつもの私と違うよ。
 私は……お兄ちゃんが他の人とそういうことをして欲しくないから。
 だから、こんなにも怒っている。だから、こんなにも我が侭になる。

「……二人とも、そんな状態なのに……普通でいられるわけがないでしょ」

 だけど私は、本当の気持ちに蓋をして、そう弁護した。

「あ、うん。そうか……うん」

 お兄ちゃんは、何かに納得しているようであった。

「う〜〜〜ん、ところで柚ちゃん。あの技、完成してたって言える?」

「何言ってるんですか! 私を殺す気だったでしょう!?」

 お兄ちゃんの言葉に、柚ちゃんは少し興奮した様子で応えた。
 って、『あの技』?

「いやぁ、どうもあの状態だと、あれ以上弱くすることが出来なくて……」

「だからって……あれはまともに受けなくても、死にます! ……怖かったんですから……」

 最後だけ、すこししおらしくなっている。
 それにしても、あの技?
 私が知っている、お兄ちゃんの持っている技の中で完全じゃないのは……いくつかあるけど、そのなかで一番、お兄ちゃんが重要視している技……

「……鳳炎ちゃんと、凰炎ちゃん……?」

「え?」

 私の言葉に、お兄ちゃんが軽くこっちをみた。

「鳳炎ちゃんと、凰炎ちゃんを……まさか、完全に!?」

 あっちゃ〜、とするかのごとく、お兄ちゃんは頭を掻いた。

「わかっちゃった? やっぱり……」

 分かるよ。
 いままで、躍起になって鳳炎ちゃんと凰炎ちゃんを使いこなす特訓をしてたじゃない……

「でも、これはまだ改良の価値あり、だよ。これ使ったら、今まで以上の力を使うからね」

「お兄ちゃん、私にはその技がどんなものか、教えてくれないの?」

 私の言葉にしかし、お兄ちゃんは……

「うん、それはできないよ」

 そう、はっきり言った。
 がっくり……

「だって、技としては型にはなったけど……あとはこれを、修練に修練を重ねて、改良する! そうすれば。ディアドラゴだろうが、倒してみせるさ!」

 お兄ちゃんはそういって、倒れた。
 あわてて、わたしはおい兄ちゃんの元に駆け寄った。

「お兄ちゃん!」

 私と、ほぼ同じ顔つきの少女……それでも、お兄ちゃんだけど……は、ただ、寝ていた。
 すやすやと、安心したような顔で。

「……どうしろって、いうのよぉ……」

 私は、困り果ててそういった。
 お兄ちゃんは気絶、柚ちゃんは腰を抜かして歩くことが出来ない。
 そして私は、非力だから二人を担いで医務室に運ぶことなんて、出来ない……
 防御壁を使って運ぶことは、基本的には不可能。
 だって、通常防御壁を動かすのは、多大なる『力』を使う。薄くて壊れやすいものなら、動かす『力』も少なくてすむけど、お兄ちゃんや柚ちゃんを運ぶときに使う『力』の量は、かなり凄いことになる。
 この前お兄ちゃんを防御壁にのせて運べたのは、防御壁自体を動かすことが出来る状態にして、肉体的力をつかって押していったからだ。
 それが二人となると、ちょっときついかも……

「ま、まってて! 誰か呼んでくるから!」

 この後、私はマールさんを呼んできたんだけど……
 何処でどう話が伝わったのか、柚ちゃんが腰を抜かしちゃったことがティアさんにいっちゃって……
 しばらくの間、柚ちゃんはティアさんにからかわれ続けることになっちゃった……

 ごめん、柚ちゃん。

 

TO BE CONTINUED


あとがき

お久しぶりです……
はぅぅ。執筆が遅れてしまいました。
理由は色々ありますが、あえて何とはいわないことにしましょう。
どうせ言い訳臭くなるだけですし!

と、いうわけでドラゴテールアドベンチャー第九話! ここにお届けいたします!

えっと、初めに突っ込まれる前に行っておきたいことがあります!
それは、『なぜ更夜が、新撰組の必殺剣なんて知っていたか』ってことです。
普通の人なら知らないこの技(なお、この技は実在してました。嘘だと思う人は検索してみましょう)。

それは……今回の裏設定その一にあります!

今回の裏設定その一!
食堂の兄ちゃんは現実世界からやってきた新撰組のマニアだった!

ってなわけで、その兄ちゃんのうんちくをだらだら訊いているなかに、草攻剣があったわけです。
といっても作者は新撰組のことについてそんなに知っている訳じゃありません。
なにか、いい必殺技はないものかと色々本をみていたら、某小説の中にあったのが、この草攻剣。
実際に調べてみたら、おお、あった。
更にこの技は集団剣技であって、鳳凰天昇波を使える龍騎士フレイが一人でもなんの支障もなく使うことが出来る!
ってわけで、この技を使わせてみました。

すみません、ちょっと言い訳臭くなりました。

まぁ、それはそれとして……ふぅ。
やっと、柚ちゃん以下二人の強化が完成しました。
強化といっても、攻撃力が上がったりしたわけではなく、元々あった知識をちゃんと実戦で発揮できるようにしただけです。
それでもかなりの戦力強化につながったと思います。
やっと次回から、まともに戦える……?

うっと。
それより今回、初めて鳳炎と凰炎の完成型の片鱗が現れました!
そのうちその全貌が明らかになりますので、今はあれだけで勘弁して下さい。
ただ、今回のフレイのつぶやきの内に、その全貌を表す言葉があったりします。っていうか、まんまです。一つ言えることは、完成型の形は、一つじゃないってことです。それだけは確かです。
さて。問題は名前をどうするか、ですが……いつもどおり、適当で良いかな?

 

さてさて。次回の予告です。

現れる超巨大戦艦!
艦の機動力は桁違いに高く、逃げることは出来ない。
道は一つ……敵艦に乗り込んで、相手の司令官を討つ!
こちらは少数精鋭で攻め込むことになった。
現れる強敵、攻め来るキマイラ軍団。
戦いの末にあるものとは?

と、いうわけで次回は『激 突!』です!
多分、このエピソードは数話に分けて書くと思います。

では次回も、(期待せずに)待っていて下さい。


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戦闘場へ

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