ドラゴテールアドベンチャー
第10話 『激突!!』

 

作者名:カイル


 それは、ある日のことだった。

「ちぇ。修練場追い出されちゃった」

 ちょっとは自分の身体のことも労れって言われて、一ヶ月ぐらいの修練制限を受けてしまった。
 実は修練は、暇つぶしもかねていたのだ。こうなると、暇で暇で仕方がない。

「……甲板で、風でも浴びとこ」

 そう考えたボクは、さっさと甲板に行くことにした。
 甲板は基本的に開放されている。ここから侵入されないように、普段は見張り番がついている。
 この見張り番は外からの侵入者のために設けられているものなので、艦の人間だったら簡単にスルーできるのだ。

 甲板に出たボクは、思いっきり空気を吸った。
 ……う〜〜ん、潮の香りだ……景色を見てみると、どうやら諸島の上空を通過しているらしい。
 だけど、ボクはその諸島をよく見なかった。正確に言えば、他のものに気を取られたっていったほうが正しい。

「うっわ〜〜〜。綺麗な夕焼けだなぁ……」

 思わず、そう口に出してしまった。
 星空や、綺麗な景色を長時間見続けていられる自信はないけど、眼にした綺麗な景色を、短時間で感動することは出来る。
 そしてボクは、その夕焼けを見て思いだした。
 そういえば、最近吹いてなかったな。

 ポケットにあたる感触。……うん、ちゃんとある。
 ボクは、ポケットからそれを取り出して、息を吹き込んだ。
 少し抑揚のある、ドの音が響いた。続いて、吸い込むことでレの音を。立て続けに、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドと、鳴らす。
 この銀のハーモニカは、ボクの宝物だ。小夜と離ればなれになった、次の日に……夕焼けの中、父さんがくれたものだ。練習を繰り返し、今ではこのハーモニカに関しては、それなりに自信がある。
 少し息を吸い、今度は一つの曲を吹き始めた。
 曲、といっても最近の曲ではない。
 曲名を知っているわけでもない。ただ、こんな曲があったな、という程度の知識だ。
 ただ……この曲を吹いていると。優しさと、暖かさ。そして、若干の寂しさを感じる。
 理由は分からない。けれどボクは……この曲のことを、一番気に入っているんだ。

 銀の音色が、夕日の空に響く。
 ボクの心にも、優しさと、暖かさと、寂しさを残し、響く。

 やがて、その曲を吹き終えた。
 そして再び、夕日に向き直る。

『……なかなかに、心にしみる曲だったな』

 褒めても、何も出ないよ。フレイア。

『それにしても、意外だったな。お前が、楽器を奏でることが出来るとは』

 失敬な。
 それはボクに対する侮辱か?

『褒めたつもりだ。気にするな』

 気にするなって言われても……

「あ、あの……今の、フレイさん……ですか?」

 ふと、後ろから声が聞こえた。
 この声は、確か……

「ああ、夏麒か。うん、そうだよ」

「上手、なんですね」

 こう、ストレートに褒められると、何となく気恥ずかしいものがある。
 一方の夏麒は、夕日の光が顔に当たっているせいか、顔が赤くなっている。この分じゃ、ボクの顔も相当赤くなって見えるんだろうな。

「えっと、あの、その……」

「? どうしたの、夏麒」

「え、あ……ふ、フレイさんは……小夜さんのこと、どう思ってるんですか?」

 小夜のこと?
 また、なんでそんなことを訊いて来るんだろう。
 だけど……その答えは、思っていた以上に難解だった。
 最近の小夜の態度が、以前と違うのだ。
 以前より感情の起伏が激しい上に、ボクに対して『何か』を伝えようとしている。
 その『何か』は、なんなのか分からない。
 だけど……その『何か』ってのを知ることに、ボクの心は拒否をしているような気がする。それと、同じものを自分でも持っている気がして。
 自分でも気づいていた。だけど、それを知ってしまったら……ボク達が、今のままの関係でいられなくなるから。だから、気づかない。答えを出そうとしない。

 ボクは、自分の胸に手をやった。
 柔らかい感触が、手を伝ってやってくる。
 そしてその柔らかい感触の下から、ドクンドクンと言う、心臓の音が響いている。

「……ボクは、分からない。本当は分かっているような感じはあるんだけど、それを……ボクは拒否しているんだ。自分もそれと同じものを持っている気がして。それで、今の関係を壊したくない。だから……ボクは。小夜とは……双子の兄妹としか、思えないんだ」

 正直に、ボクは言った。
 こんな事を、こんな小さい子に言って何になるのかは分からない。だけど……
 誰かに、話したかったのかもしれない。
 知ってもらいたかったのかもしれない。
 何かを押し込むよりは、吐き出してしまったほうが楽だから。

「臆病なんだよ、ボクは。違うかもしれないことにびくびくして、怖がっている。バカみたいだけどね」

 口を開けば、出てくるのは愚痴ばかりだ。
 こんな事を訊いて、夏麒が楽しいわけがないのに。

「……ごめんね。愚痴、訊かせちゃって」

「い、いいえ。ボクが訊いたことですから……」

 夏麒は、そういって俯いた。
 気遣ってくれるのは嬉しいけど、それじゃあこっちの気が晴れない。

「お詫びに、一曲何か吹いてあげるよ。ボクの知ってる曲だったらね」

 その言葉に、夏麒は頭を上げた。

「じ、じゃあ……何か……元気の出そうな曲をお願いします」

「……そういうのが、一番困るんだけどね」

 こういう抽象的な事を言われても、少し困る。
 だけど折角のリクエストなんだから……何か、応えなきゃいけないね。

 ボクは、目を瞑り、再びハーモニカに口を付けた。
 今度の曲は、『翼』。
 ……父さんが、昔教えてくれた曲だ。

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。

 吹き終えたとき。
 そんな、拍手の音が耳朶を打った。
 ……観客は夏麒一人のはずなのに、なんでこう、拍手が重なって聞こえるんだ?
 疑問に思って、目を開く。
 するとそこには……

「小夜に、柚ちゃん……」

 二人の少女が、そこにいた。

「ハーモニカの音色が聞こえたから、お兄ちゃんだ、って思って」

「私も、同じです。もっとも、更夜さんが奏でているとは知りませんでしたけど」

 ここに来た理由を聞いてもいないのに、彼女たちは言った。
 おかげで訊く手間が省けた。

「……流石だね、お兄ちゃん」

「何がさすがなのか分からないんだけど」

 苦笑いしながら、そういう。
 小夜はと言うと、微妙な顔をしていた。

「お兄ちゃん。こんなところで、何をしてたの?」

「暇だったから、ここに来た。で、久しぶりにハーモニカを吹こうと思ったんだ。……最近、まともな練習もしてなかったしね」

 正直に、そういった。
 もっとも、ハーモニカを吹こうと思った動機は話さなかったけど。

「ふ〜〜ん。夏麒君も一緒に?」

 何故だろう。
 今ボクは、この場からすごく逃げ出したい。
 小夜はいつもどおりのはずなのに、なんか違うような気がする。

「あ、あの。ボクは……ハーモニカの音が聞こえたから、なんだろなって思って……」

「それで、二人っきりね」

 ……恐い。
 なんか知らないけど、今日の小夜は恐い。
 今すぐに逃げ出したい。だけど、どうやって? 甲板から出る入り口は、小夜と柚ちゃんの背後だ……
 と、待てよ?

「で、更夜さん? 二人で何をしていたのですか?」

 今度は柚ちゃんだ。
 ……勘弁してくれよ。

「だから、なんでもないって……」

 そういいつつも、ボクは後ずさりする。
 すると、彼女たちも一歩進み出てきた。
 再び後ろに一歩踏み出すと、彼女たちもまた、一歩進み出てきた。
 数回、それを繰り返した。結果、ボクの背中に柵が当たった。
 その気になれば、すぐに飛び越えられる柵が……

「……」

「……」

「……」

 誰も、言葉を発しなかった。
 そしてボクはこの空気に耐えられない。逃げたい、と率直に思う。

『だが、どうやって逃げるつもりだ?』

 フレイア。君は、忘れているのかい?
 ボクは、龍騎士だ。そして……龍騎士だったら、この状況でも逃げる方法が、たった一つだけ有る!

「……てい!」

 そういって、ボクは柵に手をやり、思い切って飛び降りた

「え?」

「はい?」

 突然のことだったから、二人は反応できなかったのだろう。
 素早くボクは首飾り状の神具を握りしめ、龍騎士に変身した。
 すぐに翼を広げ、飛翔。
 そして真っ直ぐに上昇して、ボクを見つめる二人の頭を飛び越えた。

 ボクの計画はこうだ。
 二人の目の前で変身したら、柚ちゃんが変身してボクを止めるだろうし、小夜の防御結界で行く手を阻まれるだろう。
 だけどボクがいきなり飛び降りたことで、二人に隙が出来た。その隙をついて、ボクは二人の頭を飛び越したのだ。

 さて。ここまで来れば。もう、逃げ道は目の前にあった。
 ボクは真っ直ぐに甲板から出る入り口へと、走ったのだったが、その時……背筋に、氷のように冷たいモノが走った。
 この感覚は……一度だけ感じたことがある。
 ボクがこの世界で死にかけたときに……アイツから感じた、感覚だ。

『これは……感応魔法か。おそらくこの前の戦いの時、お前の体の中に奴のデータが少し紛れ込んだのだろう。意図的に……そして、いま。そのデータと本人を使い、共鳴させあっている。つまり、敵は近くにいると言うことだ』

 すぐに、ボクは引き返した。
 傍らでは小夜と柚ちゃん、そして夏麒君がどうしたんだろうと言う顔でこちらを見つめている。
 フレイアの言うことは的を射ていたが、出来ればそんなことは信じたくなかった。だからボクは目を凝らした。
 龍騎士となっているので、桁外れに強化された視力を使い、ボクは空の向こう、上、下を見つめた。

 ……そして、見えてしまった。
 こちらへ向かってくる、その戦艦を。
 むろん、それは龍騎士の『目』を使わなければ判別不可能なほどの遠さである。
 あっちがこっちを確認できるはずがない。だけど、その共鳴があちらにもあるというのだったら……

「おにい……ちゃん?」

「更夜さん?」

「ボクは操舵室に行く。何かの戦艦が見えた。ディアドラゴの軍勢の戦艦かもしれない」

 それだけいって、ボクは操舵室へと急いだ。
 後ろから声をかけられたけど、気にせずに走る。

「ティア!」

 操舵室に入る鳴り、ボクは彼女を呼んだ。

「なに? フレイ。今ん所は異常なしだよ」

「そうでもないよ。甲板からみたんだけど、遠くに戦艦らしき影が見えた。それに、嫌な予感がしたんだ」

 それを訊いたティアは、急に真剣な顔つきになった。
 手を振り、クルー達に檄を飛ばす。

「すぐにレーダー確認! あと、遠眼鏡の準備! フレイ、どっちの方向?」

 あれは……確か。
 太陽を正面として、後ろの方だった。つまり……

「東だ! 東の方角!」

「分かった? すぐに東の方角に注意を払う! だからといって他の方角をおろそかにしないこと! いつ何時、何が襲ってくるか分かったモンじゃないからね!」

 帰ってくるのは、威勢のいい返事。
 クルーは皆、それぞれの仕事をちゃんとこなしている。

「……フレイ。戦艦って、これ?」

 ティアの差し出した手持ち式のモニターに映されていたのは、間違いなくボクの見た戦艦だった。
 色は黒。流線型の……どこか、イルカを彷彿させる外観。間違いない、とボクは思った。

「うん、これだ」

「龍騎士って、並外れた視力持ってるっていってたけど……まさかここまでとはね」

 呆れたように、彼女はため息をついた。

「ど〜やら、ただの戦艦じゃないようだよ、相手は。この艦の、ざっと十倍はあるっていう大きさね」

 でか!
 そりゃでかすぎだろ。

「しかもこいつは……ツォベラーの技術が使われている。それはあの形が物語っている。んでもってしかも……フレイ。訊いて驚かないでよ? 飛行速度……この艦の、五倍」

 ………はぁ?

「しかも、あちらさんはこっちの方に真っ直ぐ来ている。やっばいなぁ……」

「どういう、事?」

「だから、もうあっちはこっちのことをつかんでるって事。んでもってあと数十分もすれば追いつかれるね、これは」

 んな悠長な!

「事実は事実。追いつかれないようにスピードを上げてるんだけど、もう無理だね。あっちがなんで、この艦を追いかけているのかは分からないけど」

「追いつかれるって事が分かってるんだったら、すぐにそれなりの対応をしようよ!」

「ああ、うん。分かってる」

 ティアはそういって、すぐに指令を出した。
 警報機を鳴らし、それぞれのチームの長をこの部屋に集めた。
 ……むろん、全員の龍騎士も。

「ってことで、巨大戦艦がこっちに来てる。戦闘準備をして、各自待機。時間がないから、あとは各自判断して動くこと。無理に攻め込まずに、防戦に徹すること。以上。……あ、だけど。フェンリルナイツのピラム、セレスティアルのデュナミス、オリンポスのアレスは残って」

 簡略した指令を、集まった長達に回した。
 そして、その全員が準備に取りかかった。

「で、のこった龍騎士の諸君と、ピラム、デュナミス、アレス。みんなの力を見込んで、このことを言う。……どうせ、こっちが圧倒的に不利なんだから、ここは少数精鋭で、一気に敵艦を落とす!」

 おお!
 そう来たか!

「だけど、こっちの守りも必要。だから、龍騎士のうち3人ほどはこっちに残って。つまり……龍騎士3人、ピラム、デュナミス、アレスの3人、計6人で突入してもらう!」

 龍騎士、3人?
 ボク達は、互いに見合った。
 この中の、3人、か。

「戦力を半分にするとしたら、フレイとマールは分けるべきだとおもうな」

「その意見は賛成です。更夜さんとマールさんは、龍騎士6人の中でもお強いですから」

「でもさ、攻める方に力を集中させた方がいいんじゃない? 何たって、少数精鋭なんだから」

「うん、その意見も正しい」

 それぞれが、それぞれの意見を出し合う。
 出来るだけ早く決めなきゃいけないんだ。少なくとも、奴らが来るまでには。

「でもさ、マールの指揮能力はこっちの防衛戦にもっとも発揮されると思うな」

 ベネの言葉に、マールは頷いた。

「そうだな……外なら、広範囲無差別攻撃も使える。っつうことは、ベネ、お前もこっちだな」

「へ?」

「だってそうだろ? 大地の力は艦内だろうが空だろうが使えねぇ。雷の力は、外の方が思いっきり使える。と、言うわけで俺とベネは残る。あと一人、こっちに……」

 そこまでマールは言い、残った四人を見回した。ボクと、柚ちゃんと、夏麟と、夏麒の四人。そのなかの、一人がここに残ることになる。

「ティ、ティアさん!」

 と、ここで……
 小夜が、声を上げた。

「わ、私も……私も行かせて下さい!」

 その言葉に、そこにいたボク達は……驚愕した。
 なんで、小夜が……?

「駄目だ、小夜。今回のこれは、本当に危ないんだよ? 確かに、小夜の防御能力はすごい。それは認める。だけど、だったら……その力を、艦の防衛に使って欲しい。だから、行くのは、駄目だ」

 と、言うのは建前だ。
 危険な場所に小夜をつれていきたくない。こうやってこっちの世界に、小夜が残っていることすらどうかと思っているのだ。だから、せめて……安全な、艦内にいて欲しい。それが、本音だ。
 しかし……

「い、嫌な……嫌な予感がするんです。お兄ちゃんを一人で行かせたら……」

「一人じゃない。ピラムさん、デュナミスさん、アレスさん、それに……龍騎士もボクだけじゃなく、あと二人もいる。だから、大丈夫だよ」

「……でも。この、予感……この感触は……外れたことがないの。
 お兄ちゃんが交通事故に巻き込まれたとき。どこかの神社で、火事が起きて……その中に、お兄ちゃんがいたとき。……お兄ちゃんと、離ればなれになったとき。だから、護りたい。お兄ちゃんの側にいて……この予感が嘘だったって、思いたいから……」

「フレイ。こうなったら小夜は、てこでも動かないよ。魔法を覚えようとするときだって、やめといたほうがいいっていう忠告をしたのに、それでもいいから、教えてくれってせがんだからね」

 唐突に、そんな横やりをティアが入れてきた。
 しかも、かなり厄介な。

「………」

「しかも、教えてくれなきゃ飛び降りて死ぬって脅す位なんだから。……悪い事言わないから、つれていって、護ってあげなよ。じゃないと、小夜がなにしでかすか分かったモンじゃないからさ」

「え……?」

「そ、それは……」

 本当、なのかな。
 当の小夜は、俯いて顔をこちらから隠すようにしている。
 やっぱり、最近小夜のことが分からない。

「……分かった。だけど条件がある。……決して、一人にならないこと。それが条件だ」

「う、うん」

 どこか、ほっとした顔をする小夜。
 逆にボクは心中穏やかでいられないよ。

「……よし。夏麟、お前残れ」

 と、唐突にマールがそういった。
 また、なんでだろう。

「え、なんで?」

 まぁ、夏麟がそういいたくなるのは分かる。
 自分のことなんだし。

「理由か? お前の武器が銃だからだ。狙撃は出来るんだろ?」

「まぁ、出来るって言えば出来るけど」

「だから、お前はこっちに残れって言うんだ。あの中に行ったら、折角の狙撃練習も無駄になるぞ」

「でも、近距離戦闘練習もしたよ、私」

「メインは狙撃の方だったろ? それに、こっちにいても白兵戦が有るんだ。近距離戦闘練習は、その時に発揮しろ」

 なるほど。
 理屈は通っている。
 でもできれば、小夜を止めて欲しかった。

「……分かったわよ。そん変わり……夏麒!」

「な、なに? 夏麟」

 いつもと同じ感じ……おどおどしながら、夏麒はいった。

「おどおどしてたんじゃ、す〜ぐやられるわよ。あんたも龍騎士なんだから。その、しゃんとやりなさい!」

 初めて。
 ボクは初めて、夏麟が夏麒を激励したところを見たような気がする。

「……話は終わった? っていうか、もう……来たよ」

 ティアの言葉が合図だったかのように、船体がぐらりと揺れた。

「うわ!」

「まったく。総員、第一戦闘配置に! 今まで使えなかったこの艦の武装を、今日は思う存分使う!
 突入隊は隙をうかがって敵艦に侵入! 防衛班は各自の判断で、敵兵と戦うこと! 命令は以上!」

 おおおおおおおお!

 盛大な声が、あちこちから挙がった。
 そして、モニターに次々とこちらの飛龍部隊が出撃していった。

「フレイ! 互いに、五体満足で会おうな!」

「不吉な事言うな!」

 マールの軽口に、ボクはそういった。
 ……小夜までついてくるというので、今のボクに余裕はない。
 出来るだけ小夜には、手を出させずに……勝つ。

「分かってるとは思うけど、敵の司令官を見つけてこれを撃破、または動力部の破壊。狙いはこの二つのうちのどちらか。とにかく敵艦を止めることを考えて動くことだよ」

 ティアの言葉には頷くだけにとどめ、ボク達は突入のための作戦を、考えた。

「敵に見つからずに行くとしたら、やっぱり小夜さんの例のステルス結界で?」

「ああ。奴らのレーダーがどれほどの能力を持つのかは分からないが、少なくとも……あたりにいる兵士の目を欺くことは出来る。……もっとも、奴らの兵力の半分が合成獣だ。鼻の利く者、龍騎士のような超感覚を持つ者もいるだろう」

 柚ちゃんの質問に、アレスさんが応える。
 アレスさんはオリなんたらとかいうどこかの神さまの名前を称号として受け継ぐ部隊に所属しているらしい。
 『アレス』ってのは、その中の軍神、ということだ。
 そしてアレスさんは、その名に恥じないほど強く、指揮能力も強い女性だ。

「……行こう! ぐだぐだ考えるより、さっさと実行だ!」

 敵艦が、いよいよ視界に入ってきたとき。ボクはそういった。

「確かに、一理あるな。ここで議論しているより、そっちの方がいい」

 アレスさんも、ボクの言葉に頷いてくれた。

「よし、じゃあ行くよ。小夜、ステルス結界を」

「……うん」

 全員が一箇所に集まり、そして小夜が術を唱え始める。
 あのときと同じように、ガラス玉のような丸い球体がボク等を包み込んだ。

「よし、行くか」

 甲板には、魔導師部隊の皆様が集まっていた。
 戦士の皆様は、飛龍に乗り込んで戦うようだ。

「いくぞ!」

 ボクは小夜を抱きかかえ、他の人はそれぞれの方法で飛翔した。
 向かうは敵の戦艦。
 混戦の中突っ込んでいては、流れ弾が当たってしまうかもしれないので、出来るだけ急いでいく。
 ……小夜の嫌な予感。外れてくれていればいいんだけど……


「いったね」

 あたし……ベネは、空中に飛翔しながらそう独白した。
 きっと、姉さんはここに来ている。
 中にいるのか、外に出てきているのかは分からないけど。
 どっちにしろ、撃破するだけの話。中にいるんだったら、フレイ達がうまくやってくれるはずだ。

「雲よ……我が意に従え」

 マールは隣で、あたりにある大量の雲をその双掌に集めていた。
 雲というのは、水のデータが分散することで形成されている。
 例外を除けば、それが一般的だ。
 そしてこの上空には、雲がたくさんある。それはつまり、マールにとっては空全面に武器があることと同意語である。

 かくいうあたしは空中戦は得意ではないけど、雷の力を使えば、なんとかいけるはず。

「きたぞ!」

「全軍、突撃!」

 敵の軍勢が、こちらに突撃してきた。
 こちらの勢力の戦士達も、飛龍に乗って応戦する。
 あたしも、行かなきゃ!

我の元に収束されたるは雷神の息吹…… 我が剣となりて、我が敵を討て!

 術を唱えつつ、右腕を敵の軍勢に向ける。
 そして、その力を……解放させる。

雷刃破《ヴォルティックエッジ》!」

 放たれた雷の刃は、一直線に敵軍を焼き払った。
 ……が、それを逃れた戦士達が、術を放ち隙の出来たあたしに襲いかかってくる。
 私の持つ武器……大槌では、攻撃が間に合わない。

「ぎゃ!」

「ぐわ!」

 だが。
 脇から放たれた白い閃光が、その敵を撃ち払う。

「ベネさん、油断大敵ですよ!」

 夏麟の狙撃だ。
 彼女がいてくれるからこそ、あたしは安心できる。
 大槌なんていう、攻撃力はあるけど隙の出来てしまう武器を扱う私をサポートしてくれる、銃という武器を持つ夏麟。
 そして彼女は、別の場所にいる戦士たちの援護もかかさずに行っている。
 時には一直線上に、そしてまたある時には拡散式の。
 状況に応じた攻撃を、出来るようになっている。
 さっすがフレイ。あんたの生徒は、しっかり成長してるよ。

 さて。あたしも、ちゃんと相手をしますか。

 かけ声をあげつつ、雷撃を放つ。
 あたしの武器はとてもじゃないけど、多数相手に使えるようなモノじゃない。
 だからこそ、私は雷のみで勝負を仕掛けている。

集え、雷の精霊よ! 爆雷陣《ライトニングプロージョン》!」

 がががががががが!

 あたしの放った術が、敵をまとめて瞬殺する。
 ……あたしはこのまま、最前線で敵をまとめて焼き払う。
 例え逃したとしても、マールや夏麟、そして頼りになる艦の仲間達がいる。
 だからこそ、あたしはここで力を発揮する。
 後ろにいる仲間達に、出来るだけ損害が行かないように。

「まとめていくよ! 爆雷陣! 雷刃破! 双雷迅!


 爆発に次ぐ爆発が、どこかで響いてきた。
 俺こと、マールは集めた水蒸気の固まりを一気に放出した。
 ……氷の、塊として。
 氷の塊は弾丸となり、敵軍を撃つ。
 ディアドラゴの軍勢が如何に大量といえど、こちらには質においては最高峰の龍騎士が三人もいる。
 対してあちらは、キマイラの力を得たとはいえ、元はただの犯罪人だ。
 つまり、一度は捕まったような奴らである。
 ……いくら数がいたとしても、最前線で広範囲無差別魔法を使えば、大概はやり過ごせる。
 まぁ、そこから逃れる奴も必ず出てくるが、そこは艦にいる奴らに任せれば大丈夫だ。
 あちらの軍勢の奴らより、強い奴もいれば弱い奴もいるが、逃れた数はそうは多くないはずだ。
 そこを、数の暴力でやっつけてしまえばいい。
 聞こえは悪いが、効果的なことに変わりはない。 

「……っと。大概は、そうなんだがな……」

 既にオレのセンサーは、奴の存在をキャッチしている。
 砂漠の城ではあっけなく吹っ飛ばされた奴だったが、この前の戦いでは予想以上の強さを発揮してくれた。
 そいつが、ここに来ている。

「いるんだろ? ……レオン」

「ご名答だな。青の龍騎士」

 オレの言葉に、律儀に返事をした奴がいる。
 一振りの剣を持った青年……レオンだ。
 これで奴と相見えるのは三回目だ。
 砂漠の城、この前の奇襲、そして今この場。

「今度は、決着を付けようか」

 そう、言ってみるが。

「残念だが、今回は時間稼ぎだけだ。……こっちとしても残念なんだがな」

 そういって、にやりと笑ってくれる。
 時間稼ぎが目的だと?
 ………やつらがこっちに攻めてきた目的は何なんだ?

「……考えてもしゃあない。さっさとお前を倒して、艦を護ることだけを考えるか」

「そう簡単にやられるかよ。この魔剣……『闇薙』のサビにしてくれるわい!」

 そういって、騎龍を巧みに操りながら、こちらに攻撃をしてきた。
 初めてあったときは完全なギャグキャラだとふんでいたんだが……

「とんだ思いこみだった。手加減して勝てる相手じゃないって事……しっかりと思い知ったよ」

 独白し、オレは剣を握りなおした。
 一瞬後、レオンは剣を振るった。
 素振りをしたわけではない。剣から闇の波動が放出したのだ。あの闇の波動を出すには、ああやって剣を振るわなければならないのだろう。

 オレはそれを軽く避け……ようとして、闇の波動の方を切り払った。
 大した理由じゃない。ただ……あの闇の波動の先に、こっちの仲間がいた。ただそれだけの理由である。

「……じゃあ、時間稼ぎが出来ないように……ちゃっちゃと片を付けるぜ!」

 言いつつ、準備していた水全てを使って、奴を包み込んだ。
 たかが水、と侮ってはいけない。
 何せ、その辺にある雲全てを水にしたのだ。
 リットル単位で図っちゃ、いけねぇぜ?
 その水を、一気に圧縮してやった。

「さっさと、押しつぶされろ」

 情緒もクソも何もないが……さっさとケリを付けるにはこれが一番である。
 これで終わったと思った。だがしかし……

「だぁ! こんちきしょう!」

 その叫び声の後、奴を包み込んだはずの水の塊は、全て弾け飛んだ。

「死ぬかと思ったじゃないか、この馬鹿野郎」

「……相変わらず、非常識な攻撃力してんのな、お前さんは……」

 そう。
 こいつの恐るべきところはその攻撃力にあった。
 かつてはオレの放った術を全て切り払い、剣と剣との押し合いではわずかに奴の方が上と言ったところである。
 下手すりゃ、オレが負けかねん。

「だったら……」

 オレは。近接戦で戦わなければいい。
 戦争において、卑怯という言葉は無に帰す。勝った方が歴史の勝利者なのだ。
 誰がなんと言おうと、それが真実だ。だが、そんな中にも忘れてはいけないものもあるが。

凍れる魂持ちたる王よ 汝の青き祝福で我が敵を討て…… 凍陣氷裂破!」

 冷気の術で、奴に攻撃を仕掛ける。
 まぁ、これで奴が凍り付く、なんて事はないだろうが。

「へっ。てめぇ! 舐めてやがるのか? そんな術なんざ耐えられるぜ!」

 いわれたとおり、奴には凍陣氷烈破による攻撃が全く効いている様子がなかった。
 ったく。厄介な奴だ。
 だったらオレは。こいつの狙いどおり遊んでやろう。
 踊らされるより、自分から踊ってやった方が幾分かマシだからな。

「……へっ。じゃあ、たまにはそっちから仕掛けてきてみな」

「いわれなくても!」

 フレイ。
 こっちは大丈夫だ。
 艦は、絶対に守り抜いてやる。
 そっちも頑張れよ!

 

TO BE CONTINUED

 


あとがき

 と、いうわけで。
 第十話、ここにお届けいたします!

 ………すみませんごめんなさい。
 中途半端なところで区切ってしまって。
 というのも、メインは突入していったフレイ達の方なもので。
 じゃあ先にそっちをかけよ! と言うツッコミは出来れば無しの方向で。
 と、いうよりもこの『敵艦突入』と言うことは、いわば第一クール終了というか、そんな感じなのです。
 今回下手に押し詰めて書くよりも、こうやってばらけさせた方が多分気楽にかけるだろうなと、そんな感じで分けました。
 まぁ、そういうわけで。
 次回はフレイ達の方に視点が戻ります。
 さぁ次回はどうなってしまうのか!
 気長にお待ち下さい。


ドラゴテールアドベンチャーの部屋へ

戦闘場へ

TOPへ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送