忍者少女的戦闘生活
第一話 『忍者少女 服部葵 参上』
作者名:カイル
私の名前は服部・葵(はっとり・あおい)。今年で華の十六歳の少女。現代に生きる、忍者の末裔。
現代に生きる忍者は、いろいろなことをやっている。
例えば、古来よりやっている隠密・・つまりスパイ。
情報を得て、それを売る情報委員。
暗殺者として、働くこともある。
そして・・・・最近は、妖魔を倒す仕事も、ある。
私のやっているのは、情報収集と、一番最後の・・・・妖魔退治だ。
私は、戦闘服に着替えて夜の町に飛び出した。
戦闘服というのは、一般的にいわれている忍び衣装である。動きやすいし、闇に乗じやすいので、私はこの服が大好きだ。
・・・・っと。おしゃべりは、どうやらここまでのようね。どうやら、狙いの獲物が出てきたみたいだからね。
「出てきなさい」
出来るだけ、冷たい声でそういう。
お目当ての標的が姿を現した。
その姿は、まるで翼手竜のようだが、より人間に近い形態で、頭部も人間の顔に短い嘴がついた程度。
通称、ガルーダ。
この程度のヤツだったら、私ひとりで十分だ。
どうやら下級のガルーダなので、ほとんど特殊な能力も持っていないだろう。鉤爪で攻撃する程度のヤツである。
これが上級とかになってきたら、真空の刃を飛ばすなど油断のできなくなるのだが・・・今回はそれはない。
しかし普通の人にとっては厄介なはずだ。普通の人が虎に対抗するより危険な行為なのだ。
「もし、貴方が私の言うことを聞くんだったら、傷付けはしない。だが、背くのであれば、私は貴方を力ずくでも捕獲しなければならない」
ガルーダは、その鉤爪を使って私を攻撃してきた。
すんでの所で避ける。
やはり、交渉は不可能か。
ある程度予想していたので、私はさっさと戦闘態勢をとった。
私は、懐から手裏剣を取り出した。それを、目にも止まらない早さで投げつける。手裏剣が相手に突き刺さった瞬間、手裏剣は炎上した。
忍法、曼珠沙華(まんじしゃげ)だ。
曼珠沙華とは、別名彼岸花。それに似ているところから名付けられた忍術である。
忍術とは、簡単に言えば自然界の力を借りて放つものである。(例外もあるのだが)
例えば、今さっき使った手裏剣に炎の力を込めて放つ『曼珠沙華』。
小刀を投げて、それを地面に突き刺し・・・それを避雷針のように雷を収束させて攻撃する『雷電』。
ポピュラーなところでは、『火遁』、『水遁』、『雷迅』なんかがある。
まあ、それはいい。
私は、弱ったガルーダに、白紙の巻物を投げつけた。巻物は放物線を描きガルーダに直撃、ガルーダはその巻物に吸い込まれていく。確認のためにその巻物を拾い上げ、中を見てみればちゃんとガルーダの姿形が描かれていた。
これが、私の捕獲方法なのだ。
「任務、完了」
後は、こいつを元の妖魔の世界に帰せばいい。やたらと殺したりしても、意味はないからだ。
こいつだって生きている。無闇な殺生は、忍道に背くことである。
私は、巻物を懐にしまうと、自分の家に帰った。
これが、今の私の仕事。
こうやって、妖魔の世界から何らかの事情で人間の世界に来てしまった奴らを、巻物に一時的に封印させるのが、私の仕事なのだ。
これを、元の世界に戻すのは他の人がやってくれる。
それにしても、疲れた〜〜〜〜〜
早く帰って、寝よ。
さて、今から学校である。
表向きは学生だから、当然学校に通わなくてはならない。
私は、友達と一緒に学校に向かっている。
「ふあ〜〜〜あ」
私は大欠伸をした。
忍者のくせに、って思う人がいるかもしれないが、これもカムフラージュの一環だ。と、言えば聞こえは良いが、実際は地のままの姿をさらけ出しているに過ぎない。
仕事中と、日常生活中の姿が違うと、よく言われている。
周りの人は、私が忍者として妖魔退治をしていることを知らない。
話すつもりもないけどね。
「葵ちゃん、どうしたの?」
私の友達の、宮原志織だ。
「ちょっと遅くまで起きていてね」
嘘ではない。
ただ、大事なところを話していないだけだ。
「最近、変な事件多いよね」
「そうね」
確かに、志織の言うとおり変な事件が多い。
でも、私には大体予想はついている。
妖魔の悪戯や、妖魔を使って悪さをする人間の仕業だ。
普通、人間世界にやってきているのは下級妖魔であり、その下級妖魔というのはそこまで悪さをしない。悪戯程度ですませるヤツだ。
まあ、中には悪戯で済まないヤツもいるが。
人間が妖魔を悪用することが、一番の問題なのだ。人間が妖魔を使って何かをするヤツを、妖魔使いという。妖魔使いは、良いヤツもいれば悪いヤツもいる。
その、悪いヤツを何とかするのも、私の役割なのだが。
と、後ろから私の肩を叩いてくる奴がいた。しかも、気配を感じさせずに。更に、その手は私のお尻まで撫でてくる。
こんなコトするヤツは・・・・彼奴しかいない。
「よう、葵」
私は、後ろを向いた。
振り向いたついでに、そのほっぺたをひっぱたいてやった。私のお尻を撫でてきた奴のほっぺたに、紅葉マークが付くのを確認し、そいつの顔を確認してみる。
・・・やっぱりこいつか。予想通りだったので、ちょっとため息気味にそいつを見下ろした。
野菊・辰太郎(のぎく・たつたろう)。こいつも私と同類・・・つまり、忍者である。
とりあえず、私とこいつは婚約者ということになっている。だから、二人でいても別におかしくはないはずだ。
別にこいつと婚約者なのが嫌な訳じゃない。どちらかといえば、こいつのことは好きだ。
ま、今はそんなことを考えなくても良いだろう。
そういうわけでこいつとは普通に、ただの恋人として接している。
「志織、ちょっとゴメン」
私の言葉を、志織は、すぐに察する。
「もう、しょうがないな。 で、辰太郎君とは、上手くいってるの?」
「まあまあね」
とりあえず、そう曖昧に伝えておいた。
「・・・・少しは、照れなさいよ」
彼女はそういいながら、立ち去っていった。
私は、それに手を振って応じた。
「いたいなぁ」
辰太郎は、ほっぺたをさすりながらそう言った。こうしてみる限りでは、とても忍者には見えない。ただの、そこ辺りにいる青年だ。
「自業自得よ。・・・で、仕事の話しでもしに来たの? それとも、プライベートの方?」
「両方」
辰太郎は、そういって二つの手紙を差し出した。
片方は、白い便せんに入っていて、もう片方は黒い便せんに入っていた。
「今度のデート場所、白い便せんの中に入ってるから」
辰太郎は、それだけ言うと木の葉をまき散らした。それが、彼の身体を包み込むと彼は消えた。
忍法、木の葉隠れだ。
こんなところで、忍法を使うなよ。人に見られたらどうするの?
「まったく」
私は、道の真ん中にもかかわらず黒い便せんを開いた。そして、そこに書かれた仕事内容を見る。
「・・・・うちの学校じゃない」
それによれば、うちの学校に妖魔を使って悪いことをする奴がいるそうなのだ。その人物の目星も、ついているらしい。ならば、学校内で済ませてしまうのが一番だろう。
私はそれに目を通した後、それを忍法火遁で燃やした。人に見せてはいけないものは、すぐに処分するのが掟だからだ。
もう片方のほうは、家に帰ってじっくりと拝見させて貰おう。
体育の時間だ。
女子は体育館でバスケット、男子は外でサッカーである。
私は、それでミスをしまくっていた。
つるりと滑り、トラベリングをし、ダブルドリブルをしちゃう、というように。
「こら服部! 授業を真面目にやるつもりがないなら、腕立てでもやっておけ!」
そんな声が、先生から聞こえた。弱いものイジメの好きな先生なのだ。
自慢じゃないけど、私は幼い頃から血の滲むような妖魔退治の教育を受けている。本気になれば、屍を作ってでも相手ゴールリングに玉を叩き入れることだって可能だ。
でも、それをしちゃいけない。悟られぬよう、極力己の力は隠すべし。これが掟なのだ。
にもかかわらず、辰太郎は体育で好成績を残している。立派な掟違反だ。
ま、要はばれなきゃ良いんだけど・・・ね。私のは、念に念を入れた結果なのだ。だから、うちの親は体育の成績についてはなにも言わない。
私は、腕立てをしながら窓の外を見た。普通の人には見えない、妖魔達がちらほらしている。
でも、今あいつらを捕まえるわけにはいかない。あいつらは、間違いなく妖魔使いの手の内のものだから。
それに、今は授業中だ。いくわけには、いかない。
「あ〜〜あ、英語か〜〜〜〜」
そう、クラスの平賀が呟いた。
「嫌だよな」
今度は、中村だ。
「テスト返って来るんだもんな。 あんなもの、返してくれなくて良いのに」
最後のが、石川である。三人で、勉強も運動も駄目駄目トリオだ。
でも・・・・私は思う。
こいつら三人は、絶対ただ者じゃないって。
私とは違っても、絶対になんか特別なことをやっている奴らだ。いつか、こいつらのことを探ってやろうかといつも思っている。
因みに、私は力を隠すまでもなく英語はまったくの駄目駄目だ。だから彼等の意見には賛成だったりする。
そして・・・・恐怖の英語が始まった。
先生が、テストを配っている最中、事件は起こった。
まず、被害にあったのは先生だ。
先生が、突然倒れた。
そして、クラスの人達が次々と倒れて行く。
倒れなかったのは、私と辰太郎だけ。
英語の授業がつぶれて、テスト返しが停止したようだ(ラッキー)。
どうやら、妖魔使いの仕業のようだ。妖魔の中の、睡魔をつかったな。
妖魔達の催眠術や幻術は、私たちには通用しないように鍛えているのだ。
だから、私たちにだけ効かなかったのだろう。
普通の睡魔が、こんなことをするはずがない。
睡魔は、一人を悪戯程度に眠くさせるだけだ。
完全に眠らせたりはしない。
と、言うことは、答えは一つしかない。
「動き出したようね」
「ああ。そうだな」
私と辰太郎は、教室を出た。
武器はいつも携帯しているから不足しているなんて事はない。
問題はこの制服じゃ動きにくいってところだ。戦闘服を忘れてしまったことが悔やまれる。
まあ、そんなことはどうでも良いか。
私たちは、屋上に出た。そこから妖魔の力がぷんぷん臭ってくるから。
「来たね?」
そいつは、貯水タンクに腰をかけていて、屋上のドアを開けてやってきた私たちに向けてそういった。
「僕の名は冥空 闇司(めいくう あんじ)。世界の支配者となるものの名前さ」
そいつはそういった。
自分から自己紹介してくれたおかげで、聞く手間が省けた。
ありふれたちっぽけな野望を持つ奴だ。
「何を馬鹿なことを言ってるの? そんなこと、出来るはずないじゃない」
当然私は、ありきたりな台詞を返してやる。
闇司は、その台詞にこれまたお約束的に鼻で笑って返した。
「君たちは、僕の力を知らないからそんなことが言えるんだよ」
そいつは、そういって指をパチンと鳴らした。
途端、何処からともなく現れた妖魔たちが襲ってきた!
昨日も闘った、ガルーダ。
高音の声を武器とする、美少女の姿をしたバンシー。
日本古来より言い伝えられている水魔、河童。
そして、さまざまな睡魔達。
さまざまな、妖魔達が私たちを襲ってきたのだ!
それでも全て下級妖魔。世界を征服するって野望の割には、小さい力ね。
「忍法、風迅!」
私は、そう唱えた。
「忍法、火遁」
辰太郎は、そう唱えた。
私と辰太郎の唱えた術が、連携した。
風に煽られた炎は、その勢いを増して・・・・
妖魔達を襲った。
弱ったところを、巻物を使ってすぐに捕獲する。
なんか、ポ●モンみたいって突っ込みはなしね。
「ヘエ、そうやって捕まえてるんだ。でもね、そのくらいじゃ・・・意味、ないよ」
闇司は、そう言って指を巻物に向かって指した。
すると、巻物から封じたはずの妖魔達が飛び出してきた!
「な・・・・?」
「ね、言ったでしょ? この力を持つ僕こそ、この世界を支配するに相応しいんだ」
そいつはそう言って、私たちに指を差した。
たったそれだけの力で、世界の支配者に? 笑わせてくれるじゃない。
「行け。そして、殺してしまえ」
私は、手裏剣を一本、闇司に投げた。
だが、それは妖魔が身を徹して守った。
「僕への攻撃は不可能さ。 こいつらが、僕を守ってくれるからね」
・・・・仕方がない。
不本意だが、迷ってる時間はない。
「忍法、曼珠沙華!」
私は、本気で曼珠沙華を放った。
それは、妖魔達を燃え上がらせた。
妖魔は炎とともに、光の粒子となって消えていく。
「忍法、雷電!」
辰太郎が投げた短刀が地面に突き刺さった。
その瞬間、そこに雷が集束した。
短刀が、避雷針になったように。
その周辺にいた妖魔達は、雷をその身に受けた。
私たちの忍法を喰らった妖魔達は、光の粒子となって消えていった。
こうするしか・・・なかったんだ。
「なに・・・?」
闇司は、明らかに動揺していた。
これまで、彼は闘ったことはなかったのだろう。
いや、私たちのように、妖魔を倒すエキスパートと、闘ったことがなかったのだろう。
妖魔を倒すことが、私たちの専門だ。だから、この程度なんでもない。
と、妖魔達がてんでバラバラに逃げようとした。闇司の、操作が解けたようだ。
これなら、巻物の中に封じることが出来るはず!
「辰太郎、妖魔達は任せたわ」
「ああ」
彼は、それだけ言うと逃げた妖魔達を追いかけ始めた。
兎に角、私は私の仕事を済ませないといけない。
「お、俺に近寄るな! こいつがどうなっても良いのか!」
どうやら、人質をそいつは用意していたようだ。
それは・・・志織!
「あんた、なにを・・・」
「ヘッヘッヘ・・・・負けることも予想して、こうやって人質を用意してただけだ。 さあ、武器を捨てろ!」
闇司は、そう言って小刀を志織の首に押しつけた。
志織は、寝させられていた。
「さあ、どうした? 武器を捨てろといってるだろう!」
「断る」
私は、そう言った。
「なに? こいつがころされてもいいのか!」
動揺しているようだ。
台詞が平仮名になっているのが、良い証拠である。
「分かってないわね。貴方は志織の命を握ってるって思ってるかもしれないけど、逆よ。 志織が貴方の命を握ってるの。志織を殺したら、私は即座に貴方を・・・・殺す。貴方は逃げられないわ。どっちにしろ、貴方は死ぬの。貴方を殺すのが、私の仕事だから」
冷たく、無表情に私は言ってやった。
本当は、こいつを殺すのは仕事のうちに入っていないが、こいつが志織を殺したとしたら話は別だ。
相手が殺人をした場合には、そいつも殺さなければいけないと言う掟があるのだ。
忍者の掟は絶対だ。
その掟と忍術を、年少の頃からたっぷりと仕込まれて、私たち忍者は誕生する。
「分かった? もし、私が武器を放さなかったら貴方は志織を殺すとするわ。そしたら、貴方も死ぬの」
私は、一歩そいつに近寄った。
「ひっ」
更に、一歩近寄る。
そして、手に持っていた苦無を投げた! 苦無は見事にそいつの手首にあたった。ぶしゅっという音と共に、闇司は小刀を落とした。
そして、それを見計らって私は忍者刀で闇司を、斬り払った。
闇司は、倒れ込んだ。だが、そいつには切り傷一つもついていなかった。
「任務、完了」
私は、自分の手の中にある忍者刀を見た。
これは、我が家に伝わる妖刀・・・・「邪絶刀」。
その名の通り、邪悪なる力を斬ることが出来るという、刀だ。もっとも、その邪悪なるというのがなにを基準としているのかは、分からないが。
つまり、この刀で邪悪なる意識によって呼び出された能力を斬り払って、これ以上能力を使えなくしたのだ。まあ、この刀について一つ言えることは、物質的な物は絶対に斬れないってことだ。
「さて、後は」
みんなが目覚めるまで、教室で寝て待つのが一番だ。
妖魔の方は辰太郎が何とかしてくれるだろうし。
私は、急いで教室に戻って、お昼寝をしはじめた。
どこでも熟睡できるように、訓練されている私はすぐに寝息を立てて、寝始めたのだった。
仕事が終わった後の居眠りは、気持ちいいなぁ・・・・・・
ぐ〜 ぐ〜 ぐ〜(寝)
英語のテストは、しっかりと返ってきた。
因みに、点数は21点・・・・
そしてクラスの平均は60.5・・・・
泣きたくなってきた。
ふえ〜〜〜〜ん(涙)
第一話 完
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