私は服部 葵(はっとり あおい)。
現代を生きる、忍者の末裔。
その忍者の仕事のうち、妖魔の世界を抜け出した妖魔達を元の世界に連れ戻すという仕事をやっている。
また、妖魔を操って悪いことをしようとしている奴をどうにかするのも私の仕事である。
さて・・・・今回はどんなことをするのかな?
忍者少女的戦闘生活
第二話 『百戦錬磨の師匠、変化の朧!』
作者名:カイル
「父上、どのようなご用件で」
私、服部 葵は父上にそう訊いた。
何故か、私を呼びだしてきたのだ。
父上は、その厳しい顔を私に向け、こういった。
「うむ。実は・・・・朧が帰ってきた」
「し、師匠が?」
朧・・・・
私や、辰太郎。その他のこの辺りに住む忍者達の師匠だ。
その強さはハンパじゃなく強く、一度狙った獲物は絶対に逃さない。
本気でやれば、たとえ千を越す妖魔達といえども、軽く滅せるという。
正に、百戦錬磨というわけだ。
数年前、許しを得て人間世界に住んでいる妖魔達に、会いに行くといったまま行方がしれなかったのだが・・・・死んでいるとは思いもしなかったけど。
ここで、妖魔の説明を行っておこう。
妖魔とは、人外の者。
人外の者で、普通の人が知覚できないような奴らのことをいう。
妖魔には、階級というものがある。
同じ種類でも、階級によって強さも、知能も異なる。
大きくわけると、五つの階級にわけることが出来る。
●下級―――妖魔の中で、最も弱い者達。知能もあまりなく、よく妖魔の世界を脱走する。
私たちが捕獲するのは、この階級の奴らだ。
●中級―――それなりの知能を持つ、妖魔達。ただ単に力だけなら、下級と何ら変わりはないが、
知能という最大の武器を持つので、相手にしたらそれなりに厄介。
たまに危険思想を持つ奴もいるので、この階級とも闘う場合もある。
●上級―――力、知能、その他諸々が高い奴ら。許可を取って、人間界に来たりもする。
特殊な能力を持つ者が多い。
今の私の力では、このクラスまでしか相手にできない。
●聖獣級――知能、力、能力、その他諸々の値はその下の奴らとは比べ物にならない程強い。
妖魔の世界を治めている、いわば権力者。
この者達から、人間界に逃げた妖魔を捕まえてほしいと依頼が来る。
●神獣級――このクラスは、正に最上級。神話などに登場する者達のことである。
知能もかなり高い。妖魔の中でも、神とあがめられるほどの実力を持っている。
聖獣級の力では、とても太刀打ちできない。
たまに、この者達からも依頼が来る。
妖魔の世界は実力社会だ。
実力があれば、上のランクにゆける。
だが、実力がなければ容赦なく蹴落とされる。
そんな社会だ。
血統も種族もない。
強いものが、上に行くというシステム。
まあ、それはいいだろう。
神獣級・聖獣級の妖魔達に、昔私はあったことがある。
その時の威圧感・・・・
すごかった。
ただ、そこにいるだけで力の差というものを感じた。
当時の私の力では、とうてい太刀打ちできないと、悟ったものだ。
「父上、師匠が来るのですか?」
「ああ。再び、お前は朧に稽古をつけてもらいに行くがいい」
し、師匠に・・・・もう一度?
師匠に稽古をつけてもらえれば、私の実力も上がるはず。
かなり辛い修業だったけど、その努力した分だけ、強くなれる。
私は、その話に乗った。
「それで、師匠は今どこに?」
「朧なら、裏の山の屋敷だ」
「では、私はこれからそこに行って参ります」
早いうちに、会いに行った方がいい。
もしかしたら、私のことなんて忘れているかもしれないし。
何たって最後に顔をあわせたのが私が八歳くらいの時だったからな・・・・・
「・・・気をつけるんだぞ。その、いろいろな意味でな」
「御意」
私はそれだけ言うと、素早くその部屋から抜け出した。
常人が見ていれば、その場から消えたように見えただろう。
私は、すぐに裏の山に向かった。
そこには、一つ屋敷がある。
小さい頃は、よくそこでさまざまな稽古を受けたのを思い出した。
いい思い出、嫌な思い出、いろいろとあるが、今はそれを一時的に忘れた。
扉の前まで来ると、私は足を止めた。目の前にある、扉を叩く。
返事がない。
とりあえず、勝手にはいることにした。
不法侵入といってはいけない。
私は、忍者なのだから、そんなものを恐れていてはいけないのだ。
「師匠!」
辺りは暗いが、忍者は本来このような暗闇の中で本領を発揮する。
早い話が、夜目が効くのだ。
わずかな光で、暗闇の中もよく見渡せる。
さすがに、なんの光もない、真の闇は見渡せないけどね。
一番大きい部屋に、私は入っていった。
・・・・いた。
部屋の、真ん中に人影があった。
そこには、小さな女の子が一人寝ていた。
十歳ぐらいの、女の子だ。
目を覚まさせるのに、容赦をする必要はない。
私は、思いっきり息を吸い込んでから、その少女の耳元に口を近づかせた。
「起きてください、師匠!」
その少女・・・・いや、師匠は、目を覚ました。
「う〜〜〜ん、か弱い女の子に、何をするの?」
師匠は、そんな戯けたことをのたまった。
こういうところは相変わらずである。でも、今はそのおふざけに付き合っている暇はない。
「何を言ってるんですか師匠。分かってるんですよ?」
信じられない人もいるかもしれないが、これが私の師匠である。
といっても、これが本来の姿ではない。
師匠は、変化の名人なのだ。
・・・変装でないから、その辺は注意してね。
ある時は妖艶な女性。
またあるときは屈強な男。
またまたあるときは小さい女の子。
またまたまたあるときは、年老いた老人。
その実態は・・・・私も知らない。
師匠の本当の姿は、私も知らないのだ。
だって、毎回毎回姿を変えるのだから・・・
確か、最後に見たときは猫耳少女だったかな?
だから、私は師匠の年齢も知らない。
何回か訊いたけど、そのたびに考え込んで答えを出せずにいるらしい。
別に師匠に質問とかしてもいいけど、驚いちゃいけないよ?
と、いうわけで師匠は『変化の朧』の異名を持っている。
本人は、その名前を結構気に入っているみたいだ。
「・・・ばれたか。さて、葵。あんた・・・・・何をしにきたんだっけ?」
私は、ずっこけた。
師匠・・・頼みますよ。真面目な顔してそう言われると、流石に困ります。
「冗談冗談」
師匠は、けらけらと笑って見せた。 これで百戦錬磨というのだから、始末におけない。
「あんたの親父から話は聞いている。
さて、まずは小手調べ。一つ戦ってみましょう」
師匠と・・・
たとえ、師匠が手加減していても、私の負ける確率が高い。だが、確率で簡単に計れないのが戦いというものだ。
要は、相手をどう倒すかなのだから。
でも、本気で・・・・・いかないと、まず勝てない。
師匠は、戦いというものを知り尽くしているのだから。
「じゃあいくよ?」
・・・・・その姿で戦うつもりなのですか。
それで、私が油断すると思ったら大間違いですよ。
「忍法、影分身」
私は、影分身を使った。
簡単に言えば、残像を使った幻像を、相手に見せる忍法だ。
だから、本当に増えているわけではない。
最も、本当に増える忍法もあるのだが・・・・
私の力量では、まだ四人までしか増えることが出来ない。
私と、残像の私たちは、一斉に師匠に向かった。
だが師匠は、跳躍して、その攻撃をかわした。
「まだまだ甘いね」
師匠はそういうと、小刀を本物の私に向かって投げた。
その小刀は、雷を集束させた。
かろうじてその雷を避けようとしたが、わずかにかすってしまった。
「かはっ」
くっ・・・・・
忍法、雷電・・・?
でも、今さっき集束した雷は、普通の雷電とは比べ物にならないほどの力だった。
「どう? 忍法、雷電改。この旅のうちに思いついた技よ。
ほかにも数種類あるんだけど・・・・聞いている?」
はい・・・聞いてるけど・・・身体が動かない・・・・・
師匠は、倒れている私の元にとてとてと歩いてくると、手を当てた。
そこから癒しの力が流れる。
「忍法、小波(さざなみ)。さ、これで動けるでしょ」
「はい・・・・・・」
確かに、今さっき受けたダメージはほとんどない。
ちょっとまだ痺れているけど。
「これがむかつく奴だったら、一回半殺しにして回復。んでまた半殺しにして回復・・・・それを繰り返す」
「師匠・・・・怖いですよ、それ」
体は小さい女の子だっていうのに、なんていうのか・・・・殺気じゃなく・・・・・にじみ出ているなんかがあった。
と、そこについっと鳥が一匹入ってきて、黒い封筒を落としてきた。
自然と、緊張が走る。
「葵、あんたにだね。仕事が終わったら、帰ってきなさい。いろいろと話したいことがあるから」
「御意」
右の拳を、左の掌にあて、私はそういった。
私は、また夜の街に繰り出す。
妖魔退治の、仕事のためだ。
「さて、今回の相手は」
黒い封筒を破り、中の指令書を見てみる。
今回の相手は、妖狐(ようこ)。
色んな生き物に化けたり、幻影を見せることを得意とする妖魔である。
大きさは、大型犬ぐらいはある。
有名なところでは、九尾の狐なんかがいる。
っていうか、今回の依頼人はその九尾のお狐様らしい。
私が今から相手にするのは、中級の妖狐。
どうやら、危険思想を持つ奴がいたようである。
許可を取って人間世界に来ていたそうなのだが、人間を襲ったということらしい。
妖弧は、ほかの種族と比べて特殊な能力を持っている。
それこそ、下級から人を化かすことが出来るほどに。
でも、下級はそこまで知能はないからその人の、恐ろしいものに化ける程度。
中級となれば、大概のものに化けることができる。
これ以上、犠牲者が出る前に捕獲しなければ。
「ン? あれは・・・・」
見覚えある顔が、夜の公園にいた。
同じクラスの、中村君である。
そして、同じ公園内に、妖魔の力を感じる。
「・・・・まさか・・・・・戦ってる・・・?」
しかも、この感じる力・・・・
話に聞いていたのとは違う。
実力的には上級の妖狐だ。
しかも中村君は、その上級の妖狐に傷を負わせているようだ。
普通の人間が、妖魔と闘うなんてことはできないはず・・・・・・
一体・・・・・どういうことだろうか。
「・・・・それはともかく」
中村君の加勢に入らないと。中村君一人じゃ、荷が重すぎる。
中村君は、手にナイフを持って妖弧と戦っていた。
「なんだこいつは・・・・」
そんな言葉を呟きながら。
私は、そんな中村君のすぐ後ろに着地し(今まで街灯の上にいた)、言葉を発した。
「どいてなさい。貴方には、荷が重いわ」
「へ? 服部さん?」
中村君は、ポカ〜ンとした顔でこっちを見た。
・・・・まあ、妖狐が見えていたわけだし、理由を話す必要があるだろう。
でも、今はそんなことをしている暇など無い。
隙を見せれば、あいつは私たちから逃げてしまうかもしれないのだ。
「理由はあとで話す。まずは、こいつを捕獲しないといけないわ」
私はそれだけ言うと、素早く妖狐に小刀を投げた。
そこに、雷が集束される。
普通の雷電よりも、威力の高い・・・・
師匠が編み出した、新忍法。
「忍法、雷電・改」
今さっき見た師匠の技を、そのまま真似してみたのだ。
成る程、小刀の握りがポイントなのか・・・・・
でも、まだ完璧じゃないな。もっと修業して、極めないと・・・・
目の前の妖狐は、地に伏していた。
だが、相手は上級の実力を持っている。
この程度で参るとは思えない。
相手はさっきの中村君との戦いで傷ついているようだ。
だが、そういう状態が一番危険であることを、私は知っている。
手負いの妖魔ほど、危険なものはいない。
それは、ライオンなんぞ相手にもならないほどに。
奴は、カウンターを狙っている。
これまで妖魔と戦ってきた私の勘が、そういっている。
「忍法、鎌鼬!」
真空の渦を使った忍法だ。
空気の断層によって生じる真空の波が起こす、自然現象を利用したものだ。
近寄ったらやばいので、遠距離の攻撃を続ける。
そして、私は右手で風の忍法を、左手で火の忍法を。
それぞれ使った。
「忍法、風迅&火遁 融合・・・・」
その二つを、重ね合わせる。
以前から使っている、忍法の合成だ。
今回は、ちょっとかっこよく名前を付けてみたの。
「合成忍法、火龍閃!」
炎の渦が、妖狐を飲み込んで行く・・・
だが、さすがに妖狐も反撃を開始してくる。
『狐火』と呼ばれる、青白い炎を使って私を攻撃してきた。
と、その時だった!
「喰らえ・・・」
中村君が、妖狐の背後から近づいてその身体に、強烈なナイフの一撃をくれてやったのだ。
だが、妖狐はすぐに向き直る。
妖狐は、致命傷とまでは行かなくとも、決定打を受けた。
しかし、どうやら妖狐は中村君を道連れにしようとしているらしい。
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
妖狐の、魔力といっていいのかな?
とにかくそれが、中村君にそそぎ込まれて行く。
それと同時に、妖狐の姿がぼんやりとしたものに変わっていく。
「間に合え!」
私は、急いで巻物を数個を、一気に投げた。
だが、巻物は空を描くばかり。
一向に当たらないまま、今や霧のようになった妖狐は、中村君に入り込んでいった。
ところが、何か・・・光のようなものが中村君の中からはじき出されてきた。
アレは・・・妖狐の、魂!?
そのはじき出された妖狐の魂に巻物をぶつけて、捕獲した。
「大丈夫? 中村君」
「うう・・・・」
全然、大丈夫じゃないみたいだ。
顔が青ざめて、がたがたと小刻みに震えている。
「え〜〜〜と、こういう場合は・・・・」
情けないことに、私は自分にしか癒しの忍術を使えない。
それというのも、私の使う癒しの忍術は、自己治癒能力を一時的に高めることによって自分自身を癒すというもの。他の人には使えないのだ。
師匠のように、小波が使えればいいのに・・・・・・
とにかく、師匠のところに行こう。何とかしてくれるかもしれない。
善は急げだ。
私は、忍法木の葉隠れを使って、一気に移動した。
木の葉隠れは、ある一定の場所に移動するという便利な忍法でもあるのだ。
☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆
「師匠!」
「何?」
私は、こんな状況ながらも唖然としてしまった。
師匠は、なんと私に変化していたのだから。
しかも、いろいろと付属品付きで。
「師匠、何やってるんですか?」
「葵に猫耳をつけたらどうなるかなって思って」
ホントにこの人は・・・
私に、猫耳や猫尻尾をつけて、どうだっていうの?
・・・まさか、読者サービス?
「それは良いから、その子をちょっと見せて」
そういって、師匠は中村君の顔色を見た。
額に手をあてたり、腹の一部分を軽く指で触ったりしていた。
「ふんふん」
ひとしきり、見終わると紙に何かを書き始めた。
そして、それを私に渡す。
「ここに書いてあるもの、急いで買ってきて」
理由は分からないけど、師匠はそういった。
私は、そこに書いてあるものを見た。
近所のうどん屋で、きつねうどん。さいとう酒店で焼酎。その他諸々のものが、書かれてあった。
私は、言われたとおり買ってくることにした。
・・・当然、普通の私服に着替えて。 いくら何でも、忍者の戦闘服を一般人に見せるのは気が引ける。だって恥ずかしいもん。
「いらっしゃい!」
かなりパワフルな親父さんである。
いつもなら、ちょっと世間話とかをするところなんだけど、中村君があの状態ではそんなことはできない。
「狐うどん一つ、持ち帰りで」
「へい!」
速攻でそれは用意された。私は、お金を払って次の場所に行く。
「お、葵ちゃん。お使いかい?」
「ええ、まあ」
私は、それだけ答えると師匠に頼まれたものだけを買ってでていった。
そして、その他のものも買い終えると、師匠の屋敷に戻った。
「師匠、頼まれたもの買ってきました!」
「よし、そこにおけ」
言われたとおり、私は勝ってきたものの袋や箱をそこにおいた。
師匠は、その中から、焼酎を取り出した。
何をするかなってってみていたら、それをなんと飲み始めたのだ。
「うん、やっぱりこれがないとな」
・・・なんのため、この人は飲んでるんだ?
「それはともかく、あれを見ろ」
「へ?」
私は、師匠に指差されたものを見てみた。
そこには、光り輝く光の球らしきものがあった。
大きさとしては、人一人くらいかるく入りそうなくらいで、実際何かが動く気配というものがあった。
「こ、これは?」
「う〜〜〜む。どうやら、妖狐はこいつに憑依しようとしていたらしい」
「憑依?」
「ああ。でも、この子はすごいね。妖狐に身体を乗っ取られるはずが、逆に力を自分に取り込んでしまったんだから。普通の人間にできることじゃないよ。この子は、潜在能力的にすごいね。一般人にしておくのは勿体ないよ。まぁ、身体に取り込んだ魔力をもっと使いやすくするために身体の構造を変えるためにこうなったんだよ」
「でも、中村君はどうなるんですか? 魔力に身体が耐えられなくて、どうにかなってしまうんじゃ」
「私は前にこうなった奴を見たことがある。ま、このままいっても命に別状はない」
「よかった・・・・」
関係ない中村君を死なすわけにはいかないもんね。
と、光の球が一段と輝き始めた。
そして、何かが現れた。
私はそれが中村君だと思ったが、どうやら違っていた。それは、一人の、少女だったのだ。
髪は、透き通るような銀髪で、それが背中まで伸びている。
肌の色は、きめ細かくて、すべすべしてそうだった。
しかも、狐の耳と尻尾が生えた、生まれたままの姿(つまりは裸)の少女。
尻尾は、七つほどあった。
妖狐っていうのは、尻尾があるほど力を持っているのだ。つまり、結構力を持っていることが分かる。
しかし・・・私も師匠も、とりあえず見ても無問題だが・・・
ほかの部分で有問題だ。
「これは?」
「やっぱりか・・・
妖狐の魔力のせいで、いわゆる、半妖化しちゃったんだよ。妖魔の力を使いやすくするには、妖魔に身体を近づけるのが一番だからね」
半妖化。それは、人間が何らかの原因で妖魔と、人間の中間的存在になってしまうことだ。半妖と同類語として、亜人というものもある。
ってことは、中村君は妖狐の力を受け継いだ人間になったってことか。
半妖の特性は、まあ結構あるから、その話はまた後日にしましょう。
「直るんですか?」
「いや、そう簡単には直らない。ヌヴィエムにだって、直せない」
ヌヴィエムとは、九尾のお狐様の名前である。
念のため言っておくけど、性別不明である。
彼(彼女かもしれないが)は、昔から師匠の友達だったらしい。
話の始めあたりに言った、会ったことのある神獣級とは、そのヌヴィエム様のことだ。
「こいつが、邪悪なる者だったらお前の「邪絶刀」で何とかなる。または、これを仕掛けた奴が邪悪なる者だったとしても、邪絶刀で何とかなる。だが、どちらも邪悪なる者ではない。
こいつは、自分の力を自分の欲望のために使う奴ではないからな。そして、こいつに憑依しようとした妖狐も、邪悪なる気持ちを持ってじゃなく、ただ逃げようとしただけだ。邪絶刀は、こんな時は役に立たない。それはあんたも分かっているでしょう?」
私は、腰に下げている邪絶刀を見た。
確かに、そう言う妖魔に対して邪絶刀を使ったことがあったが・・・その時は何の効果もなかった。それと同じようなことなのだろう。
「ヌヴィエムは、こんな事態を想定して依頼したんだろうが・・・遅かったな」
そういわれると、責任というものがズ〜〜〜ンと私にのっかってくる・・・
でも、なんで女の子に?
私がそう思っていると、師匠はそれを見越したかのようにこういった。
「どうやら、あの妖狐はメスだったらしいな」
そんな答えでいいんですか? 師匠。
っていうか、そんなことで女の子になってしまった中村君って・・・結構不幸なのかもしれない。いや、ある意味幸運なのかもしれないが。
と、光の球から出てきた少女が、目を開けた。
「あ・・・・ここ、何処?」
透き通るような声だ。彼女の目は、まるでサファイアのようにきれいである。
「・・・とりあえず、名前と年齢。 性別、自己PRを」
「ふへ?」
その少女は、困惑しながら師匠の質問に答えた。
「ボクは、中村 瞬。今年で十六歳。男。趣味はゲーム」
その少女は、そういった。
どうやら、間違いなく中村君のようだ。
クラスでされる自己紹介の時にも、同じことを聞いた覚えがある。
「あれ? 服部さんが二人・・・しかも、一人は猫耳を・・・」
やっぱり師匠・・・その格好はしない方がよかったんじゃないですか? ほら、混乱してるじゃないですか。
すると師匠は同じ方法で、『別にいいじゃん』とか言っていた。まったく・・・本当にこの人は・・・
少しは真面目にやってくださいよ、お願いですから。
「あのね・・・中村君。説明しにくいんだけど・・・」
私はハッとした。
そういえば、師匠は鏡も買ってくるようにいったのだ。儀式用だとばかり思っていたが、このためだったのか。
一応師匠も、巫山戯てばかりではないみたいだ。
おっと、ちょっと失礼な発言だったかな?
「これ、みて」
そういって、私は彼・・・いや、彼女に鏡を突きだした。
「あ、可愛いな。これは・・・鏡・・・ってことは・・・」
中村君は、自分の身体を見た。
膨らんだ胸、在るはずのものが、ない。
そうした事実が、彼女に知らされたはずだ。
彼女は、自分の胸をまず触った。
そして、下の方もちゃんと調べた。
「ない・・・・・」
・・・・お約束を踏襲してるな・・・・・こいつ。
しかも、狐耳でボクッ娘だし。
「・・・・どういうこと?
今さっきの、でっかい狐と関係してるの?」
説明するのはちょっとあれだけど、とりあえず私は説明を始めた。
私が、忍者ということ。
妖魔を元の世界に送り返す仕事をしていること。
中村君は、妖狐によってそんな姿にされたこと。
「そんな・・・ 服部さんが、忍者・・・ってことは、暗殺もとか?」
「いえ。それは、別のものがやってるって」
事実、私が人を殺したことはほとんどない。
殺したことのある奴は、何奴も此奴もくそったれの大悪党だったので、別に良心も痛まなかったが。
「ヘエ。実は、ボクは暗殺者なんだよ。暗殺者っていうか、殺し屋なんだけどね。同じ闇に生きる、同業者だから教えるけど」
彼女は、そういった。
「・・・どういうこと?」
「だから、ボクの家は先祖代々続く由緒正しい殺し屋。時代劇で有名なあの方は、ボクの偉大なご先祖様って訳」
・・・道理で、前から変な感じがしたわけだ。
絶対になんかやっているっていう、匂いがしたのは。
ってことは、石川や平賀もなんかやってる訳か?
「で、ボクはなんで女の子に?」
「だから、あの妖狐のせいよ。師匠の話だと、元には簡単には戻れないんだって」
「そんな・・・・・」
彼女は、途端に暗い顔をした。
「心配するな。 人間に戻れないといっただけだ」
それ、全然フォローになってませんよ、師匠・・・
ついでにいうなら、説得力にかけます、その姿じゃ。
「元の姿に戻るくらいなら、実力的には上級の妖狐の魔力を獲た君なら十分可能♪」
『♪』をつけた意味、あったんですか?
っていうか、突っ込みばかりだ・・・・私・・・・
どうも、師匠がいると調子が狂う。
「でも、基本的な姿はそれだからな・・・とりあえず、その姿で過ごしたほうが、いろいろと便利だよ」
「どういう意味ですか?」
「葵、すぐにきつねうどんを用意して」
「は?」
確か、狐の大好物はあぶらげ・・・まさか・・・
ある仮説を用意しながら、私は動く。
「はい、用意しました」
私は、電光石火の素早さできつねうどんを用意した。
火遁を使い火をおこし、暖めたそれを、中村君の前に持って行く。
「はい」
「うう・・・美味しそう・・・」
見れば、尻尾と耳が、嬉しそうにピコピコ♪ ってなってる。
「いただいて、良いですか?」
「ああ」
そして、中村君は本当に美味しそうに、そのきつねうどんを食べ始めた・・・尻尾がパタパタと本当に嬉しそうに動き、耳もピコピコ動いている。
「・・・・・」
「このように、あぶらげなんかを出させるとすぐに正体を現すからな・・・・・それに、変化より耳と尻尾を隠す方が簡単だし、特訓すればあぶらげを出されても耳も尻尾も出さずにいられるようになる。変化は、ちょっとしたことですぐに戻っちゃうし」
嘘だな。私は、瞬時に理解した。
何故そう思ったかと言えば、知り合いの妖狐にあぶらげを差し出したことはあるが、変化までは解けなかったからだ。
その人によれば、変化は少し特訓すればあぶらげ程度で元に戻るという不手際はしないだろうとのこと。師匠はただ面白がっているだけのようだ。
でも、口には出さない。私も面白いと思っているからだ(笑)。
「でも、学校とか家族とかは」
取り敢えず、思ったことを口に出さないようにそう言っておいた。
「家族だったら問題ない。こいつの家が、殺し屋の家だったら別にばらしても問題はないから。同じ闇に生きる、同業者だから問題ナッシング。とりあえず、こいつの家の人達に理由を話して、瞬と変わりにこの娘がやってきたということにすれば、学校のほうも大丈夫。例えば、瞬の従姉妹という設定とかね」
成る程、やり方はいろいろとある。
でも一番の問題は、中村君がそれを承認するかだ。
「中村君。それでいいかい?」
「は、はあ」
きつねうどんを食べ終えた中村君は、そう返事をした。男だったら、もうちょっとしゃきっとして貰いたいものだね。まあ、今は女の子だけど。
「名前は自分で決めること。わたしは電話してくるからね♪」
そういって、師匠は電話しにいった。
全くの余談であるが、ここの電話はかなりレトロな形をしている。
あの、ダイアル式の黒い奴だ。
「・・・ボクの電話番号、知ってるのかな?」
あの師匠なら、知っていてもおかしくないと思う。
いろいろと謎なことが多い人だからなぁ。
「ところで、中村君」
「瞬って呼んでよ。そのほうが、慣れてるし」
「じゃあ瞬。名前決めたほうが、良いよ。同じ名前じゃ、さすがに怪しまれるからね。それに、瞬って、思いっきり男の子の名前でしょ? だからかえた方がいいとおもう。自分で決めた方が、慣れるのも早いだろうし、自分で納得できるだろからね」
「じゃあ、服部さんも考えてよ。ボクじゃ、考えつかないからさ」
「分かったわ。あ、それと私のことは名前で呼んで。私もそっちの方が慣れてるしね。服部さんっていわれると、ちょっと背中が痒くなっちゃうのよ」
そういって、私は背中を掻く振りをした。二人とも、笑った。
彼女の笑いは、けっこ〜かわいかった。う〜ん、瞬は嬉しくないだろうけど、さぞかし男にもてるな、こりゃ。
そして、私たちは考え始めた。
結果・・・春菜となった。
いろいろと推敲した結果こうなったから、詳しく追求しないでね。
つまり、中村 瞬(なかむら しゅん)は中村 春菜(なかむら はるな)となった。
因みに、戸籍変更ぐらい、忍者にとってはスライムを倒すように簡単なことなのだ。
「ところで・・・なんで妖魔と戦っていたの?」
「仕事さ。仕事で標的を殺しにいったんだけどね、そいつが・・・」
成る程、妖狐が化けた奴だったって訳か。
「どういう依頼だったの?」
「そうだね・・・ある人を、自殺に追い込んだ張本人ってとこだな」
成る程。多分、妖狐がその人の心の力を少し吸い取ったのだろう。そして、何かその人の心に突き刺さることをいったのだろう。
それでも、妖狐を攻めることはできない。
結局、自殺なんてする奴は心が弱い奴だから。少しぐらい心の力を吸い取られても、一時的に寂しくなってしまう程度で、何ら支障はない。それで自殺へと向かってしまうのは元から心が弱い奴なのだ。
“生きる”という過酷な試練から逃げ出したやつは、その家族の気持ちも何も考えていない、自分勝手な臆病者なのだろう。そんな奴は、生きていても死んでいても変わりはしない。自分でその臆病な心を、どうにかしない限り。
人は誰しも、弱い心を持っているが、それに向き合って生きていくのは大変だ。だから、人はそれをどうにかして決着をつける。目をそらしたり、それを認めて逆に開き直ったり。
だが、そいつはそんなことができなかった。臆病な心を真正面から見据えてしまったのだろう。
逃げることも、認めることも、闘うことも知らずに、ただ自分の心をやせ細らせていき・・・最後には・・・・
家族は、自殺に追い込んだ奴を憎み・・・それで、殺し屋に依頼したのだろう。
結局のところ、殺し屋というのは悲しみや憎しみを刃とするための代行人なのだ。
しばらくすると、外から車の音がした。
「来たみたいじゃな」
振り向けば、なんと老人に変化した師匠がいた。
白い髭がチャームポイントっぽい老人だ。
老人にしては、茶目っ気があるような気がしないでもないが。
「師匠・・・」
私は呆れて、春菜は驚いていた。
「師匠、そんな格好した意味、あるんですか?」
「ああ、とりあえずこの格好なら、相手も信用しやすいじゃろう?」
そういって、師匠はウィンクをした。
本当にそれで信じてもらえると思っているんですか? まぁ、そう思っているのならいいですけど。
屋敷の、インターホンが鳴るのが聞こえた。
師匠は、それに出ていった。
暫くしたら、何人かの人が来た。
どうやら、春菜の家族らしい。
「どういうことか、詳しく説明させて貰おうか?」
サングラスをかけた、二枚目の男がそういった。
「断兄ちゃん・・・・」
その後に続く女性は、今の春菜に似てきれいだった。
「静希姉さん・・・」
最後に入ってきた少女は、どちらかというと可愛い系に分類された。
「詩音・・・・」
全員、なかなかの使い手のようだ。
そ〜ゆ〜のは、大概匂いで分かる。
春菜の言葉からして、兄と姉と妹らしい。
・・・親が来てないってことは、もう既に他界しているか、仕事で来れないか。そのどっちかしか考えられない。
師匠は、その三人に詳しく訳を話した。
「信じられないわね・・・」
と、静希って人が呟く。
信じられないのは、こっちも同じなんだよね。クラスメイトの男の子が女の子になるなんて。
「・・・信じる、信じないはお主達の勝手じゃ。じゃが、儂は真実しか話とらんがな」
そういって師匠は、自分の顎髭を撫でた。
「そこにいる、狐耳の娘が瞬という名前の青年だった者じゃ。じゃが、今は半妖化しておるがの」
師匠は、そういって目をつぶった。
「・・・信じられない・・・」
「葵。ここは家族だけにしてやろう」
師匠の言葉に、私は頷いた。
そして、私たちはその屋敷から出ていった。
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「葵、あの妖狐・・・・・中級という知らせだったけど、実は上級の強さだったでしょ」
今度は・・・・・師匠、貴方がすごいのは認めます。人外のものに変化するその力は賞賛に値します。
でも・・・・だからって・・・・だからって・・・・・
「なんで、妖精少女なんですか?」
「最近それにはまっちゃってさ」
っていうのが答えだった。
つまり、最近見つけたネットの中の妖精のことについて書かれてある小説を読んで、それにはまっているそうなのだ。
今の師匠は、白い羽根をした、可愛らしい妖精少女になっているのだ・・・・
「それはともかく、私の質問に答えなさい」
「・・・確かに、中級と指令書には書かれていたけど、実力的には上級だったと思います。感じる力が、中級とは異なっていましたから。でも、以外とあっさり倒してしまいました。力を持っているくせに、それをうまく扱えないって感じでしたね」
「うん、実はそれね・・・あの妖狐、私の大切な『種』を食べちゃったんだ」
「・・・は?」
私は、訳が分からなくなった。
『種』? なにそれ。
聞き覚えのない単語に、私は困惑した。
「ん〜簡単に言えば、力を一時的に上げる道具なんだ。そのせいで、あの妖狐は上級の力だけを持っちゃったってわけ」
つまり・・・あの妖狐はその力を使いこなせてなかったってわけですか?
だからあんなにあっさりと倒せたってわけなんですか?
「師匠、そんな大切なものを、どうしてその妖狐が食べたってことが分かるんですか?」
「ああ、実はこの前その『種』を一つ、落としちゃったみたいでさ。それがどうしても見つからなくて・・・でも、あんたが捕まえてきた妖狐を調べたらその『種』を食べたって痕跡があったの」
「それって、どんな痕跡なんですか?」
「簡単。これを見れば一目瞭然」
そういって、私が捕まえた妖狐の巻物を広げた。
一匹の妖狐が、描かれている。よく見れば、額のところに何か紋章が描かれている。
勾玉を連想させるような紋章だった。
まさか・・・
「これが、その『種』を食べたときにでる物だってことですか?」
「そう」
そうあっさりと頷かれると、何も言う気が失せてくる。
疲れがどっと出た感じだ。
「そうそう、明日から本格的な修業にはいる。学校が終わったらこっち来なさい。しっかりしごいてあげるから♪」
そんなかぁいい姿で、きついこといわないでくださいよぉ。
「じゃあ、あとは中村君の戸籍変更をお願い♪」
「・・・御意」
私は、そのもとを離れた。
っていうか、確かに戸籍変更は簡単だけど、めんどくさいんだよなぁ。
なお、この方法ははっきり言って企業秘密。喋ったりしたら私の命が危ないから、読者さん達にも明かせません。
・・・・・やっと・・・・・終わった・・・・・・・・・
時計を見てみる。
午前・・・・・・六時・・・・・・
・・・・・お風呂入って・・・・・ご飯食べて・・・・・着替えて・・・・・学校だ・・・・・
・・・・・・お布団で寝たかったよぅ(涙)。
第二話 完
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