私は服部 葵(はっとり あおい)。
 現代を生きる、忍者の末裔。
 その忍者の仕事のうち、妖魔の世界を抜け出した妖魔達を元の世界に連れ戻すという仕事をやっている。
 また、妖魔を操って悪いことをしようとしている奴をどうにかするのも私の仕事である。
 さて・・・・今回はどんなことをするのかな?


忍者少女的戦闘生活
第四話 『遊園地で大騒動』


作者名:カイル




 私たちは、遊園地にやってきていた。
 ・・・遊びに来ているのである。
 ん、仕事だと思った?
 流石にこんな遊園地を舞台に暴れようって輩は存在しないはずである。

「さ〜〜て、葵も春菜も。今日は思いっきり遊ぶわよ!」

 師匠は私たちと同年代の姿になっている。どうやら遊ぶ気満々のようだ。

「ししょ・・・」

「だめだめ。今の私のことは・・・そうね・・・」

「アホで十分だ、こいつのことは」

 異様に大きい荷物を背負っているのは、九尾の狐ことヌヴィエムだ。
 それにしてもあのリュックには何がつまっているのだろうか。謎である。

「もう、アホってことは無いじゃない・・・ヌヴィー」

「朧。お前今年で何歳だと思っている?」

「え? え〜〜と・・・覚えてないっす」

 因みに考えた時間、わずか二秒だ。
 二秒で考えるのも煩わしくなったらしい。

「菅原道真とかなら噂程度に訊いた覚えがあるんだけどなぁ・・・・」

 ・・・一体何時代から生きているんだ、この人は。

「じゃあとにかく・・・まずはアレね!」

 そう言って師匠が指差したのは。
 ズバリ・・・ジェットコースターだった。

「れっつらご〜〜」

 誰も反論する奴もなく、女四人組はそのジェットコースターに向かうのであった。




「なんかつまんないね」

 それが私たちの感想であった。
 なんてことはない。全員が常人離れした平衡感覚を持っているので、すぐに飽きてしまったのだ。
 あのあともかなりの量の絶叫系の乗り物に乗ったのだが・・・あまりにもつまらなすぎる。
 悲鳴の一つも上がらない四人組だった。
 かといってお化け屋敷に行っても妖魔なんて見慣れたモンだから驚くはずがない。(春菜は別だけど)

「よし、だったらあのカバさんに乗ろう」

 師匠が指差した先には、ほのぼのとした顔のカバさんがいた。
 ほのぼのピンクのカバさんだ。
 アレはゆっくりだろうが、ゆっくりとした奴を乗るのがこのメンバーのこの遊園地での、唯一の楽しみなのかもしれない。

「じゃあ乗ってみようか」

 ってなコトで乗ってみることになったが。

 がしゃんって、なんか安全ベルトみたいな者が装着された。
 乗っている人全員が、はてなマークに包まれている。

「・・・葵さん、このカバの名称、見た?」

「見てない」

「・・・踊るカバさん・・・悶絶地獄」

 なんか笑える名前だった。
 だから少し笑ってみた。意味は、全くなかったけど。
 次の瞬間、私たちは身体を大きく揺さぶられた。
 カバさんが豹変した瞬間だった・・・・





「あんな衝撃、久しぶりね・・・」

「師匠、それ本気で言ってるんですか?」

 あんなのがこの世に存在するとは。
 普通は考えられない。
 っていうか、忍者として鍛えられている私でさえちょっとくらっと来たぞ、アレは。
 絶叫マシンとしては、間違いなく最高峰だろう。

「あ〜〜まだくらくらするよ〜〜〜」

 ベンチで思いっきり寝そべっている春菜は、どうやらかなり目を回したようだ。
 あの、踊るカバさん悶絶地獄とやら。なかなかやるな。

「何なんだ、あのカバは! ふざけてやがるのか!」

 そんなコトを叫んでいる奴がいた。
 おそらくは私たちのように、あのカバに騙されて乗った奴なのだろう。

「ちきしょう・・・こんな所、ぶっ壊してやる! 赤き力よ 灼熱の魂よ 我を弓にし」

 あの呪文・・・? まさか!

「雨のごとく射られよ! 《隆炎矢》!


 思った通りの術・・・・炎の矢を雨のように降らせる術だ。
 予想はついたとはいえ、技の発動には急を要する。
 私は放たれた炎の矢を一気に消そうと想い、この技を放った。
 手を思いっきり地面に叩きつけ、そこから水を噴射させる術。

 忍法 水遁

 私の目論見通り、地面から水が噴き出し・・・炎の矢を全て飲み込み、消してしまった。

「・・・ここは一つ、穏便にいかなければな」

 ヌヴィエムがそう言う。
 そりゃそ〜だが、こんなところで穏便にしろってったって。
 あいつも、私の姿を確認して闘るつもりでいるらしいし。

「なに。気にするな・・・」

 途端、空間が歪んだ。
 辺りの者が一瞬揺らぎ、私たち、そして奴を包み込んだ。

「結界を張った。好きなだけ暴れとけ。・・・結界内での破壊は、無意味だからな」

「こんな所に焔の奴等がいやがるとはな。面白い・・・ 紫紺の力よ 雷鳴の牙よ 剣となりて我が前に立ちはだかる者を切り裂け 《雷神剣》!

 雷が奴の右手に集束し、紫紺の雷剣となった。
 そっちがそう来るなら、こっちもこうするか!

「忍法 焔霊」

 私の持つ忍者刀・・・小太刀が炎に包まれる。
 炎の剣と、雷の剣。
 どちらが勝つか・・・

「勝負!」

 私と奴は、ほぼ同時に叫んでいた。
 私は走る。できるだけ速く。奴を攪乱するために。
 だが、奴も走った。・・・そのスピードは、私とほぼ同じスピードだ。
 奴は笑っていた。・・・まだ、奴には余力があるらしい。
 ならばさっさと仕留めるのみ!

「忍法 曼珠沙華」
「雷鳴弾」

 走りながら、それぞれの技を放つ。
 二つの技は空中で衝突し、爆発を起こす。  爆煙に隠れながら私は奴の気配を探り・・・そして焔霊を振った。
 私は、炎の剣を奴の腕にぶつけた。

「なにぃ!」

 こんな爆煙の中でも、私は自在に気配を感じとれる。
 ・・・最も、敵が気配を経つ修練を成していたら、意味はないが。

 それはともかく、私がぶつけた腕に火がともる。
 やがてそれは奴を包み込む。

「多分、あんたはエレメンタラーでしょ。だったらそれくらいの炎を喰らっても生きているでしょうね」

 そうなのだ。
 こいつの放つ技はエレメンタラー・・・精霊使いの技。
 ならば、炎の精霊、または水の精霊を使えばこのくらいの炎・・・すぐに消せる。
 消すのを、待つつもりはないけどね。

「忍法 雷電改」

 師匠に鍛えてもらったおかげで、完璧に出せるようになった雷電改。それを放ったのだ。
 短刀が突き刺さったところに、雷が集束して敵を攻撃するという技・・・・その電気量が、半端じゃないのだ、この雷電改は。
 何はともあれ、沈静化は完了した。

「さて・・・師匠、こいつどうしますか?」

「ああ、適当に捨てといていいよ。ど〜〜せ、小物だし」

 ってな訳で、ヌヴィエムは結界を解いた後そいつはその辺りのベンチに寝転がせておくことにした。
 髪の毛がちりちりとなっているところは・・・気にしないでおこう。
 気にしていると、きりがない。

「葵さん、すごいね・・・あいつをすぐに倒しちゃうなんて」

「アレくらい、どうってことないわ。スピードはすごかったし、技だって侮れなかったけれど・・・当たらなきゃ意味無いし」

 はぁ、という風に聞いている春菜。

「アレくらい、春菜にもすぐにできるようになるわ」

「でもボク・・・まだ狐火しか覚えてない・・・」

「春菜。狐火だけで十分だぞ。アレは、かなり応用の利く技だからな」

 私たちの会話に入ってきたのは、ヌヴィエムだった。
 ・・・確かに、その言葉には頷ける。一応上級妖狐と何度か闘った(大体は決闘だけど)ことのある私は、その言葉に頷いた。
 狐火と一言に言っても、闘った相手それぞれに形が違うのだ。
 火焔放射器のように繰り出す奴。弾丸として撃ち出すやつ。炎を凝縮して、鞭のように操る奴なんてのもいた。
 しかも厄介なのは水で消えないんだ、狐火は。
 炎であって炎でない。それが狐火なのだ。
 狐火は狐火、ということである。

「狐火は我ら妖狐と同じく、変幻自在。だからこそ狐火なのだ。・・・最も使いやすい形で、使うがいい」

 春菜はその言葉に、コクリと頷いた。
 今の話を聞いて、春菜が狐火をどう使っていくかが、少し楽しみである。
 ・・・今度敵が出てきたら、春菜に任せてみようかな〜〜っと。




「じゃあ、暇だしお化け屋敷にいこう。時間はまだあることだし、ね」

 誰も反対しなかった・・・って言うか、それほど暇なのだ・・・私たちは。
 だから、師匠の出した二人ずつのペアでいくってことにも、反対はしなかった。

「で、どういうペアでいくんですか?」

「ヌヴィエムと葵。春菜と私でいこう」

 一体そのペア組にどういう意味があるのかは・・・・大体分かっている。
 多分春菜で遊ぶつもりなのだろう。

「じゃあいくよ!」

 そう言いながら、師匠は春菜の手を引っ張っていってしまった。

「・・では、私たちもいくか。葵」

「はぁ」

 しっかし、今のヌヴィエムはどう見ても普通の女の子って格好である。
 スカートはいてるし。

「似合わぬか? この格好は」

「まぁ、言葉遣いとって意味では」

 正直に応えた。
 嘘ついてもすぐに見破られそうだったし。

「すまぬな。あっちではこの言葉遣いが常だった故に普通の言葉遣いはなれておらぬのだ」

「こっちで生活するんだったら、神獣級といえど言葉遣いぐらいどうにかしなきゃね」

「朧のようにか?」

「アレは・・・順応しすぎだと思う」

 実力あるくせに、おちゃらけが多いんだよな、師匠って。

 それはともかく、私とヌヴィエムはお化け屋敷に入っていくことになった。
 マップを見てみると、異様に広い!
 何でこんなに広いんだ、と思いたくなるくらいだ。

「うらめしや〜〜〜」

 といいながら出てくるお化け達。
 偽物と分かっていて、驚く私たちではない。
 様々なお化け達・・・西洋東洋ごっちゃごちゃだったけど・・・・が大量に出てくる。本物との間違いをがあったのを見つけた私は、それを見つけていくことにした。
 例えば、本物のヴァンパイアは十字架は怖がらないし、本物の一つ目小僧はファッションセンスにうるさいのが多く、今時和服なんか着ないし。それ以外にも、いっぱい間違いを見つけていった。

 だが、それも飽きかけてきた頃には・・・誰も出なくなってしまった。

「あれ、何で誰もいないの?」

 率直にそんな疑問を胸に抱いたが、一匹なんかが出てきたのを見て・・・これが最後の一匹なのか? と思った。
 ゲームで言う、大ボスである。
 そいつはヴァンパイア。最後の最後に、本物っぽいヴァンパイアが出てきたか。
 銀髪碧眼の男だ。黒マントを着けてはいるが、胸元には十字架のネックレスをつけている。

「へぇ、なかなかちゃんとしている・・・」

 途端、私の横にいて何も口出ししなかったヌヴィエムが手で私の進行を遮った。
 その顔は、真剣そのものだ。

「こんなところで何をしている? 聖獣級のヴァンパイア・・・」

 ・・・異様に本物ぽいって思ったら、本物だったのか、こいつは。

「ほぅ、ただの客じゃないようだな」

 そいつは静かに言った。

「血を吸っていたのだよ。なかなかに上質な血がそろうのでな・・・この辺りは」

「師匠と春菜は、どうしたの?」

 私はそいつにそう訊いた。

「師匠と春菜・・・? 誰のことかはわからんが、『焔』の者はここでは始めて出逢う。おそらく、迷っているかなんかしているのだろう」

 迷うって・・・確かに迷宮っぽい場所あったけど、ちゃんと案内書きがあったし・・・迷うってことは・・・
 師匠なら、近道とかいいながら脇道に入っていきそうだな。

「っと。冗談はここまでにして」

 彼はそう言って万歳をした。

「闘うつもりはない。元々、私はアルバイトをしていたのだよ。血を吸うというのは、演出上だ。我が名はカレアウ。ちゃんと許可を得てこちらに来ている。で、そちらは?」

「ヌヴィエムだ」
「服部葵。・・・で、何でこんなところでアルバイトを?」

「世知辛い世の中でな。ここ以外にも、工事現場のアルバイトやヒーローショーの悪役など、いろいろとしている。こっちの世界は好きだから、やっていることなのだが」

 そりゃ大変だ。
 確かに忍者の世界でも最近は依頼が少ないって聞いているし・・・

「・・・さっきも闘う気配があったが、生憎仕事中だったのでいくには憚れた。・・・誰と誰が闘っていたのかは知らぬがな」

「そうか。ならば結構。頑張ってヒトを脅かせてくれ」

「アディオス、ヌヴィエム、服部」

 彼はそう言って礼をし、私たちのために道をあけた。

「出口はもうすぐである。後一時間もすればこのバイトも終わるから、この近くの喫茶店、『喫茶夢路』でいろいろと話したい」

「ああ、分かった。一時間ぐらい、その喫茶店で時間を潰しておこう」

 ヌヴィエムは笑いながら、そう言って去っていく。
 私もその後に付いていく。

「気付いたか?」

「何に?」

 ヌヴィエムが唐突にそう言ったので、思わず聞き返していた。

「あいつが私たちをナンパしていると言うことに、だ」

 ナンパ、ね。  別に構いはしないんだけど。付き合っている人がいるって言えば大体は引き下がるし、引き下がらなかったらちょっとばかり驚かせればいい。
 ヌヴィエムは変幻自在の妖狐・・・それもあの有名な九尾のお狐様なのだから、それを知ればあっちから引き下がるだろう。
 ・・・・多分。

「人間も妖魔も。違うのは体のつくりだけだ。悪い奴もいれば、ああいう奴もいる。面白いものだな・・・」

 私たちは喫茶店、『喫茶夢路』につき、私は紅茶とケーキを、ヌヴィエムは特大パフェを頼んだ。

「ヌヴィエム、特大パフェって・・・」

「少しは、遊ばせろ。私だってこういうのを食べてみたいのだ」

 あまりにも意外なオーダーに、私は少し驚いた。
 ・・・まぁ、正体知っているだけに意外性が出ているだけなんだけど。
 傍目から見たら、ふつ〜の女の子がふつ〜にパフェ食べているようにしか見えないだろう・・・・

「あ、いたいた」

 ん? どうやら春菜達が来たみたいだ。

「もぅ。朧さんのせいで迷っちゃったせいだよ」

「う〜〜〜ん、近道だと思ったんだけどなぁ」

 予想通りっすか、師匠。
 ちゃんと道順通りに進めばよかったのに。

「朧さん、ずっとボクを引っ張っていくんだよ。そっちは違うっていっても、近道とか言って勝手に引っ張って行っちゃうし」

 師匠が勝手なのはいつものことである。
 修行中勝手に私の荷物あさったり、勝手にいろいろなことをやっているから。

「ところで、カレアウって奴に会わなかった?」

「あったよ。この喫茶店で連れが待っているって言われてね」

 春菜はコーヒーを、師匠はヌヴィエムと同じ特大パフェをオーダーした。
 程なくしてやってきたそれを口にする。

「・・・にしても、カレアウ遅いな・・・」

 そう、呟いた瞬間だった。
 爆発音が、私たちの耳を突いた。

 私たちは素速く会計を済ませると、その爆発したと思われる現場に向かった。
 そこには、大量の不良集団とカレアウがいた。
 不良集団の中には、カバさんを破壊しようとしたあのエレメンタラーもいた。

「邪魔だな、お前。いくら聖獣級だからといってもこの数には敵わないだろう?」

「そうだぜ。俺達の連携攻撃の前には、神獣級だって目じゃないんだぜ」

 彼等はそれぞれに手を中心にいるカレアウに向けた。
 私は走る。カレアウを護るようにして、忍法風迅を放った。
 放たれた風迅は彼等の放つ炎の矢を逸らさせ、逆に奴等に攻撃をさせた。

「あんた等、一体何者?」

「・・・? 何だ、今さっきの女じゃねぇか。今度は容赦しねぇ。この遊園地を全部ぶっ壊してやる。手始めに・・・てめぇら全員殺す!」

 何をふざけたことをのたまっているんだ。
 しかしこの数は・・・

「葵、春菜。しっかりと見て置きなさい」

「我らの、闘いというものをな」

 二人の身体が、白い光に包まれて・・・その光が晴れたとき、白い忍者服を着た青年と、白を基調としたローブを身に纏った少女がいた。
 少女は、背負っていたリュックを投げ捨てた。

「・・・朧。どれくらいあれば十分か?」

「三十秒で十分だね。こんな奴等」

 辺りを、結界が包んでいく。
 ヌヴィエムが張ったのだろう。
 そう言えば・・・初めて見る気がする。ヌヴィエムが闘うところを。

 二人の姿が消えた。
 次の瞬間には、十人ほどがぶっ飛ばされていた。
 一体どんな技を使ったのか・・・見ることもできぬ速さで。

 油断できぬと知った奴等は雨を、風を、雷を呼んだ。
 結界内が、嵐と化す。

 だが・・・
 二人の放つ赤と青の炎は、その嵐の中でも消えはしなかった。
 逆に、嵐のエネルギーを吸い取りより威力を増しているような気もする。
 二つの炎は奴等を包み込んだ。

「殺しはしない。全員、器物破損未遂で捕らえる」

 忍者服を着た青年・・・師匠は、何本もの短刀を放った。
 そこに、紫色の雷が降り落ちる。
 短い悲鳴を上げながら、奴等は気絶していくのが分かる。
 時計を確認し、まだ二十秒しか経っていないのを確認した。だが、残ったヒトの数は・・・わずか、一名。

「降服するか それとも闘うか 自分で選べ」

「・・・・負けられるかよ!」

 そう言ってボスらしき男は、数百本にも及ぶ炎の球を放った。
 放たれた炎の球は、師匠達の目の前で爆発し、二人を巻き込んだ。
 巻き込んだかのように、見えた。
 だからこそ、奴は勝利の笑みを浮かべる。

「何がそんなにおかしいの?」

 声が聞こえた。
 その声は、男に恐怖をもたらす。

「ど、どこだ!」

「・・・あんたが自分で私たちのいるところに攻撃したんでしょ?」

「我らは、動いてはいないぞ」

 未だに降り続く雨が、炎を消し去っていく。
 消えていく炎の中に現れたのは、まったく濡れていない師匠と、ヌヴィエムだった。

「な、何者だ! 貴様らぁ!」

「生憎、むかつく奴に名乗る気もないんでね」

 その声が響いた次の瞬間、師匠が消えた。
 首を回し、どこにいるか確認しようとする男・・・
 師匠は、後ろにいた。
 前と後ろから高速で迫る二人に対処のできない男は、攻撃される前に気絶した。

「何だ、つまらない」

 師匠はそういいながら、彼等を捕縛していく。

「ヌヴィエム、持ってきた物取り出して」

 異様にでかいリュックの膨らみは、巨大な巻物だった。
 それをバッと広げた師匠は、そこに筆を使って何かを描く。
 雨は、あの男が気絶した瞬間に止んでしまっているので滲むこともない。

 それは、門だった。
 門の絵が、これでもかといわんばかりに簡略化して書かれてある。
 だがそれを前に師匠が念じると・・・その門が実体化して、飛び出してきたのだ。

 そこを開くと中は・・・どっかの牢獄に繋がっていた。

「忍法 梵筆。描いた絵を実体化させる忍術」

 後はその牢獄に、大量にいるそいつらを投げ込んでいった。

「・・・二人とも、すごいね・・・」

 今までの闘いを見ていた春菜が、そう感嘆の息を吐いた。
 そりゃそうだろう。
 あれだけの人数をたった二人で倒す・・・しかも、奴等は聖獣級であるはずのカレアウを倒した奴等なのだ。
 ・・・神獣級と聖獣級では、かなり違うものだけど・・・

「カレアウ、大丈夫か?」

「ああ…格好悪かったな。女の子に助けてもらうとは」

「女だろうがなんだろうが、妖魔世界は実力主義だ。そんなのは関係ない」

「だったな。こっちの世界に、すっかりなじんでしまったようだ…」

 カレアウはそう言いながら、横たわる。  傷だらけで、今にも光の粒子となって消えてしまいそうだ。

「…俺は…このまま、死ぬのか…?」

「死なせるわけないじゃないか。忍法 小波

 いつの間にか女の子に変化した師匠が歩み寄り、小波をかける。
 私の使う術、忍法 内光気は自分の自己治癒能力を上げることにより傷を治す術だ。だが、これにもちゃんと欠点はある。
 自己治癒能力を上げて使う故に、自分の治癒能力ではどうしようもない怪我などは、どうしても癒すことができない。それと、病気なんかも治すことはできない。一度風邪にかかったとき、この内光気を使ってとんでもないことになったことがあるのだ。
 それに比べ、師匠の使っている小波は様々な力を借り、怪我などを癒す術だ。これなら本当ならば癒えない怪我だろうが、病気だろうが、大概は治ってしまうのだ。

「ホイ。これで死ぬことはないよ。まったく、聖獣級のくせに情けないよ」

「…朧か。まったく、今日会ったばかりだってのに心配をかけちまったな」

「まぁ、これからも気をつけろ。特に、お前が力を発揮できない昼はな」

 そう言われてみれば、あの雨が降るまでは太陽さんが頑張っていた。
 ヴァンパイア…つまり、吸血鬼ってのは伝承の通り、夜に活動する…夜行性の妖魔なのだ。
 日の光をあびても死ぬことはないが、力が巧く使えなくなってしまうのである。

「……今度また、会えないか。いや、俺は…」

「すまぬが、私たちはお前とはつきあえん。いろいろとあるのでな。…では、私たちはそろそろ帰る。これから気をつけておけ。昼間はできるだけ、太陽の下にはでないように気をつけるがいい」

 そう言いながら、ヌヴィエムは去っていく。
 結局いいとこなしの私と春菜は、ヌヴィエムの後を追いかけるのだった。



   第四話 完

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