ある狼人間の苦悩


作者名:カイル




 普段は普通の人間だが、夜になり・・・月明かりをあびると狼になる人種のことを、一般的に狼人間という。
 本日の主人公は、正にその狼人間である。・・・・ちょっと変わっているけど、ね。





 ふぁ〜〜〜あ。

 朝・・・か。
 ボクは自分の身体を確かめた。ふつ〜〜の身体だった。
 当たり前だろって言葉もあるかもしれないけど、ボクにとってはこれがいつもの習慣なのだ。
 それに、ボクは狼人間なんだよ。昨日ちょっと月を見ちゃって、変身しちゃったんだ。変身した姿のまま、朝を迎えることだって偶にある。
 だからボクは、いつも自分の身体を確かめているって訳。

 それにボクの変身は・・・ちょっとだけ変わっているんだ。どこが変わっているって? 言いたくないよ、そんなのは。
 さ〜〜てと。今日も学校だ。
 ボクは、朝食を摂るために台所に降りていった。


「おはよう、母さん」

「ああ、おはよう。今日は変身してないのね」

「当たり前だよ。そうそう変身したまま朝を迎える事なんてないよ」

「昨日はそうだったじゃない」

 ぐ・・・・痛いところをつくなぁ。
 確かに昨日は変身したまま、学校へ行く羽目になってしまったのだ。・・・途中で元に戻ったから良かったものの。  あ、そうだよ。学校の連中は、ボクが狼人間だって事を知っているし、認めている。
 それでも騒がないのは、ほかの連中もいろいろと変わった奴等がそろっているからだ。
 食卓に出されたパンを頬張りながら、ふと考えた。

 暫くは夜は晴れるそうだから、夜の外出は控えよう、と。







 そう言えば、ボクの自己紹介が遅れたね。
 ボクの名前は犬上優弥。
 性別は、男だ。誰が何と言おうと男だ。

「やっほ〜〜、優弥。アレ? 今日は変身してないの?」

 そう言いながらやってくるのは、世間一般的に言う幼なじみの少女。
 名前は安藤章子。
 彼女は、変身後の僕のことが好きみたいなのだ。
 ボクとしてはたまったモンじゃない。あの状態を好きになられても、困るってモンだ。

「昨日はちょっと月の影響が強かっただけだよ」

「でも、あんた三日月でも変身しちゃうじゃん」

 そうなのだ。
 ボクはどんなにわずかな月明かりでも変身しちゃうのだ。
 でも、このまま話していても埒があかないので話を変えることにした。

「三日月といえば、昨日の三日月座の女、見た?」

「ああ、あれね。三流以下よ、あんなの」

「確かに、つまらなすぎたね。番組もあんなのを組み込むなんてねぇ」

 何とか、話がそらせたみたいだ。
 ふぅ。こうして、ボクの日常は始まるのだった。





「おはよう・・・優弥さん・・・」

 学校で声をかけてくるのは、銀髪碧眼の少女・・・レラージュ=グロム。
 しかし、ただの少女ではない。
 ボクが狼人間なのに対し、彼女は吸血鬼なのだ。
 今までで一番美味しかった血はボクの、変身後の血、だそうだ。
 吸血鬼といっても、十字架は大丈夫だし日の光も、貧血を起こす程度。
 最も、人間より優れている様々な感覚のせいで、ニンニクに弱い、というのは伝説に当てはまっているが。

「お腹・・・空きました・・・」

「うわ! 何・・・? その眼は・・・ 言っておくけど、変身前のボクの血はあまり美味しくな・・・」

「変身後の血は、いわば極上の血です・・・今の貴方の血は、特上・・・どっちにしろ、美味しいのに変わりはありません・・・吸わせてください・・・」

「いやだ!」

「減るもんじゃないでしょう・・・?」

「減ります! 確実にボクの血液が減ります!」

「献血程度・・・200ミリリットルだけだから・・・」

「それでもいやだぁ!」

 ボクとレラージュさんは、たまにこうして追いかけっこをする。
 そしてその途中必ず現れるのが。

「レラージュ様! どうぞ私の血を吸ってください!」

 などといいながら出てくるのは、親父顔をした男(どう見ても、少年や青年といえる風貌じゃないから)、A男だった。
 自他共に認める変態である。
 そしてレラージュさんは、こう言って彼を一蹴する。

「あんたの血は脂っこくて不味いの」

 個人個人によって血の味が違うという話だ。  ボクには血の味なんて、関係ない・・・が、僕の血は相当美味しいらしい。

「今まで色んな種族の血を吸ってきたわ。雪女、猫股、鬼・・・中でも貴方の血は一番美味しい・・・だから、吸わせて」

「そんなので納得できるかぁ! だったらボクのじゃなくても、他の人の吸ってくださいよ!」

「いや。美味しいのが呑みたい」

 ついにボクは捕まってしまった。
 彼女の発達した犬歯が、ボクの首筋に突き刺さる・・・・
 逃げようと思っても、彼女の血からは普通の人間の数倍。
 ボクは変身しなけりゃただの人間。
 逃げようとしても、しっかりと抱きしめられてしまったボクは、逃れる術なくそのまま血を吸われていくのでした・・・(涙)







 やっと、学校が終わった。
 ボクの血を吸ったからか、あれからずっと元気なレラージュさん。
 対するボクは、血を吸われたから体育の時間貧血で倒れた・・・・
 その体育の時間が6時間目だったからほかの授業をサボる事ができなかったのが残念だった。
 目が覚めたときには既に六時!
 やばい・・・・後三十分もすれば、月が顔を表すだろう。
 その前に帰らなければ・・・変身してしまう!

 ボクは急いだ。
 だけどこんな時に限って・・・・

「HAHAHAHAHAHA! 久しぶりだな、優弥?」

 耳障りな笑いをあげながら空中を移動してきたのは、隣のクラスの有翼人、波根光子郎だ。
 有翼人。別名、天使である。

「何で君はボクを狙うのさ!」

 どうせならば、吸血鬼とかもう一人の有翼人(こっちは悪魔羽根をしている)、黒田正人を狙えばいいのに。

「君が可愛いからさ」

 その言葉をいわんでくれ。
 気にしているんだから。

「さぁ。早く変身したまえ! 出ないと、これをばらまくぞ!」

 そう言って彼がボクに投げ渡したのは、一枚の写真だった。
 確認してみる。


   ・
   ・
   ・


 こんなモンばらまかれたりしたらボクは終わりだぁ!
 ばらまかれることは、阻止しなければ。

「さぁ、ばらまかれたくなければ闘え! 俺のライバル、優弥よ!」

 誤解しないでいただきたい。
 奴はボクをライバルといっているが、それは奴が勝手に言っていることであり、ボクには全然関係ない。
 そりゃ、たまにこんなふうにして襲われて、返り討ちにしたことはあるけどさ。


 あんな写真をばらまかれないためにも、変身して撃退しなけりゃいけない。でも六時とはいえ、まだ月が出るには早すぎる。
 こういう、月が出ていないときのために変身するアイテムを、ボクは取り出した。
 金色に輝く、指輪を。右の薬指につける。
 そしてそれを、高々と上げた。
 金色の輝きが、ボクに変身の力をあたえる。
 指輪からでる光をあび、ボクは無事に変身を完了させた。
 そこには、一人の少女がいた。
 ただの少女ではない。ふさふさの尻尾がズボンを突き破っていて、また、狼の耳も頭の上から出ている。
 そうなのだ。ボクが狼男と言わなかった理由。それが、この変身すると、狼少女になってしまうからだ!
 ・・・だから、わざわざ『狼人間』なんて言ったんだよ。狼少女になる、だなんて・・・狼人間の家系初である。
 ボクにとっては恥でしかない。

 だが、今は闘うべき時だ。
 闘いに集中することにする。

 ボクは、空中にいるそいつ目掛けて跳躍した。
 そして鋭い爪を振るう。
 今のボクの力は、普段の比にならないくらい強くなる。

 変身して女の子になった方が、強くなるなんてちょっと悲しいところだけど。

 だが、奴はボクの爪を使用した攻撃を避けやがった。
 ならばと更に爪を振るう。
 あまりにも速い爪捌きは、真空の刃を生み出す。
 真空の刃は、直撃こそしなかったものの奴の羽根を傷つけることはできた。
 それが原因なのか、奴の動きが単調になってきている。

「なかなかやるな・・・優弥!」

 その言葉に応じないボクにいらつきを覚えたのか、奴は翼の羽根を、まるでダーツのように飛ばしてきた。
 ちょうど地面に降り立っていたボクは、それを横飛びにかわす・・・が、奴はそれを予測していたのかそこにも無数の羽根を飛ばしていた。
 そのせいで、ボクは無数の傷を負ってしまった。

 ひらり

 ん?
 どうやら、同時に服も切れちゃったらしい。
 だけど心配はいらない。変身の際に生じた銀色の毛が、ちゃんと服の代わりを成している。
 でも、この制服を直すの誰だと思ってるんだこら!
 ボクなんだぞ! 破れたり切れたりした場所を自分で縫わなくちゃいけないんだぞ!
 ・・・おかげで裁縫がメチャ得意になってしまったと事は、言うまでもない。

 とにかくむかついた!
 ボクは奴に飛びかかった。
 翼が傷ついた奴は、それをよけることができない。
 だから、簡単に取り押さえることができた。

「勝手に戦いを挑んで・・・そしてボクの服を破いたりして! 誰が直すとおもってんだよ!」

 のどから漏れる声は、ハスキーボイス。
 どう聞いても、女の子の声である。
 だから嫌いだよ、変身なんて・・・(涙)

「ぐふ」

 思いっきり殴ってやったら、そのまま奴は、気絶した。
 やり場のない怒りをぶつけるために、ボクはそいつを近くのゴミ捨て場に捨てておくことにした。




 そして、次の日・・・・・



「ああ! 優弥、今日は女の子なんだね」

 うう・・・
 昨日あの後、月明かりを思いっきり浴びた上に指輪の光も浴びちゃったせいで、いまだに狼少女なボク・・・・

「えへへ・・・ふかふか〜」

 ・・・抱きつかないでよ。
 そりゃ、ボクの身体はふかふかな毛で包まれているよ。
 でもボクは男の子なわけで・・・ああ、駄目だ。混乱してきた。

「でも、今は貴女、女の子でしょ」

 ああ・・・何か泣きたくなってきた・・・

 この後ボクは、レラージュさんと血を吸われる吸われまいかの大バトルが始まったりするのだが、それはまた別の話である・・・・
 は〜〜あ。


     エンド


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