そうじゃないだろ


作者名:カイル




 ある日、ある時のことだった。
 一人の少年が歩いていた。
 彼の名は鳳忍。
 どこにでもいそうな、普通の奴である。
 事実、平凡な普通の少年である。

「あ〜〜あ。暇だなぁ」

 暇だから、適当に歩いている。本当にただそれだけなのだ。
 ゴールデンウィーク中で、友達もどっかにいっちまったようだし。
 更に言えば、休みを一緒に過ごす恋人なんているわけがなかった。

「うるせー! どうせ俺はもてないよ!」

 なんて叫んでみても虚しいだけ。
 彼は再びぶらぶら歩き出した。
 ぶらぶら歩いているうちに、山の奥まで来てしまった。よほど暇なのだろう。
 流石に疲れて、近くにあったバスのベンチに腰掛ける。
 空を眺めれば、白い雲がふわふわ浮いている。

「・・・・なんか、すっごくむなしいきがする。一人でこんな所まで来て」

 などと呟いてみても現状が変わるわけではない。
 ため息とともに、見上げていた首を降ろす。

 と、彼は気付いた。
 少し離れた草むらの中身に見える石段に。鳥居がついていることからして、神社だと言うことが分かる。

「まぁ、暇だし・・・見学していくか」

 大したことない石段だった。自宅から山奥まで歩いてくるぐらいの体力の持ち主の彼にとって、その階段を上がるのに対して労力は使わなかったようだ。
 木々に囲まれた敷地内に小さな社。それだけの、寂しい神社だった。
 忍は少し想像した。この神社の初詣の時を。
 相変わらず、誰もいない。神様が涙しているような気がしてならなかった。

「・・・・お参りしていこう」

 流石に初詣の時も(想像でだけど)誰もいないってのは哀れに感じたんで、お参りしていくことにした忍。
 賽銭箱の前に立ち、五円玉を手にとって投げようとして・・・やめた。
 どうせならと百円玉を投げ込んでやったのだ。

 百円玉がからからいう音も心地よい。
 よほど中は空っぽだったのだろう。
 きっと賽銭泥棒だってこの神社には来ないに違いないぞ、と心の中で思ってみたりもする。

 忍は、誰もいないしということで口に出して願い事を言うことにした。

「え〜〜神様! 休みの日を一緒に過ごす女の子がいたらいいな、と思っています。どうぞ、願いを叶えてください! できれば俺と同じ年ぐらいの、綺麗ってよりは可愛い巫女さん希望!」

 ぱん ぱん

 やってしまってから、苦笑した。
 馬鹿だなぁ、とか思っちゃったりしたからだ。

「こんなコトしても無駄なのにな」

 百円勿体なかったな・・・何とかして拾えないかな、とか思っていた忍。
 だが。

 その願い 叶えてあげましょう・・・・

「え?」

 妙な・・・だけど可愛い声が聞こえた次の瞬間、強力な光が彼の網膜をついた。
 光の中、忍は妙な感じを受けた。

「え?」

 そのまま彼は・・・気絶してしまった。

☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆

「う・・・」

 忍は目を覚ました。

「う〜〜目がまだへんだ〜〜〜」

 あれほどまでに強烈な光を喰らったのだ。
 ちょっと目がちかちかする。

「っとそうだ! どれくらい俺、寝てたんだろ」

 彼は、自分の腕時計を確かめようと、腕を見た。

「!?!?!?!?!?!?」

 彼は、自分の腕が白いのに気がついた。
 それだけではない。なんか、服の裾が白いのだ。
 まるで袴の上のような・・・
 それに、腕時計がブカブカになってしまっている。
 否、腕の方が細くなってしまっているのだ。

「え? いったいどういう・・・・! こ、声が・・・」

 高くなってしまっている・・・
 と、喉に触ってみれば、あるはずの喉仏がなくなってしまっていた。
 何かがおかしい。そう考えた彼は、思い切って自分の身体を見てみることにした。

「せ〜〜の!」

 忍は、信じられない光景を目にした。
 何と、自分が白衣朱袴を着ているのだ。
 それだけではない。胸に何か詰め物があるかのように、膨らんでいた。

「これは一体・・・? あぅ!」

 彼は、膨らんだ胸に触ったところ、今まで味わったことのないナニかの感覚がぞくっときたのだった。

「これ・・・本物!?」

 再び触ってみれば・・・無にゅっとした何ともいえない感触が手から、そして何ともいえない気持ちよさが胸から脳に伝わってきた。

「ってことは・・・まさか」

 袴を着ているので、直接触ることは難しいから・・・赤い袴越しに触ってみることにした。
 嫌な予感は、あたってしまったようだ。
 そこに、男の象徴と言うべきアレがなかったのだ。
 かといってそこになにもないというわけでなく・・・その・・・・なんだ・・・

 とにかく、忍は今・・・巫女さんになってしまっているということだ!

「ど、どうなってんだ、こりゃ」

 気付けば、足下には自分の着ていたはずの服が一揃え、わざわざ畳んでおいてあった。

「・・・・?」

 ますます訳の分からなくなる忍。

「まさか・・・」

 嫌な予感がして、境内を見る忍。

「今さっきの願い事の、『俺と同じ年ぐらいの、綺麗ってよりは可愛い巫女さん』ってのが・・・・?」

 忍は座り込んでしまった。
 彼女の頭の中に、ある仮説が浮かんできた。

「確かに俺は、『休みの日を一緒に過ごす女の子がいたらいいな』とは言ったさ・・・だがな・・・俺がなってどうするんだぁ!

「おっかしぃなぁ。成功したと思ったんだけど」

 という、可愛い声が忍の耳を突く。
 その声のする方を見ると、これまた白衣朱袴に身を包んだ少女が。
 こんな寂れた神社に巫女さんがいるというのも変な話だが。

「てめぇかぁぁぁぁ! 俺を、こんな姿にしたのは!」

「そうだよ」

 あっさり応える少女。
 いいのか、それで。

「ごめんねぇ。本当は、君の彼女を作るはずだったんだけど、少し難しくってさ。失敗してそうなっちゃった。ごめんごめん」

 にこにこしながら言う少女。
 だが、それで忍の怒りがおさまるわけがない。

「ごめんですむか! 戻せ・・・失敗だったら戻せ! 今すぐに男に戻せ!」

「無理」

 一言で応えた少女。
 その言葉に、忍はあびょ〜〜〜んってなった。

「いやぁね、君にかかっちゃった魔法は『休みの日だけ巫女にする』って魔法なの。賽銭箱に入れたのが百円だったから・・・およそ百ヶ月! つまり、およそ三十三年はその体質は直らないよ」

「つまり、女の子になるのは休みの日だけなのか?」

「うん。休日って君が無意識下に認識したら、女の子になるよ。大丈夫! 長期の休みじゃない限り、生理とかはならないから」

 ちゅど〜〜〜ん

 せいり
 セイリ
 整理
 生理

 どう考えても、最後の生理だろう。

「男の俺が生理だと!?」

「でも君、休みの日は女の子になるんだよ? 大丈夫・・・ボクが、サポートしてあげるからさ」

「さぽーと?」

「色々教えてあげるよ。女の子のことを、ね♪」

 こうして忍は・・・・休みの日になると巫女さんになり、その時に限りこの少女と過ごすことになったそうな。
 めでたしめでたし。

「全然めでたくない!」



 チャンチャン♪



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